ユウガオは夜に咲く 3 (ページ6)

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105.きみはひとりかページ6

＜ベッキョン＞

人は、生きることへの執着が大きい。

「うっ…く…」

下で這いつくばる男は、必死に手を動かして、カバンの中を探っている。

　ガッ！

「いっ…!!!」

その手を踏み付けると、苦しそうにもがく男。

あ、そうだ。ちゃんとやることやらないと。

男が探っていたカバンの中からUSBメモリを取り出し、ポケットに入れる。

「はっ…くっ…」

可哀想に。

そのまま全てを受け入れて目を閉じて…あとは定めに身を委ねれば、楽になれるのに。

決められた人生を、自分でどうにか変えようとする、バカな男だ。

俺は男の前にしゃがむ。

「ねぇ、おにいさん。目を閉じてー…体の力を抜いてー…そしたら、楽になれるよ？」

「うっ…ぼく、は…」

「んー？」

「どう、して…ころ、す…ぼく、を…」

「楽しいから」

「そん、な…こと、で…」

「分かんないだろ、あんたには。世の中には人を殺すことに快感を覚える人もいんの」

「くるって、る…」

「俺にとってはこれが普通」

「ひとを、ころす、のは…だめな、こと、だ…」

…本当に、こういうヤツが、俺は嫌いだ。

「あんたらみたいに…自分の正しいと思うことをして周りから称賛されて認められるような人間、大っ嫌い！そういう奴が勝手にこれはダメ、あれはダメって、我が物顔で俺らを縛り付けるんだ。周りから理解されづらい俺の…俺たちのような人間を無視して、苦しめてることも知らずに」

『私は…生きづらい。周りから見たら、普通で幸せな人生を歩んでるらしい。そんな程度で自分を可哀想な人間だと思うな、だって。彼らはこの世界を、自分の物だというように、勝手に私を普通だ幸せだと決めつけるの。所詮彼らも、この世界に生かされてるに過ぎないのに』

「ほんとだよねー、A…」

俺は呟く。

「A…？」

男は少し顔を上げ、俺の目を見る。

「俺のご主人様。あんたのお友達の隣のデスクの人」

「チャ、ニョル…」

「あー、もー…名前聞くのも嫌なんだけど」

「きみ、は…ひとり、か…？」

ひとり…？

「独り、だよ、俺は。生まれた時から。そういう定めなの」

「そう、か……ごほっ!!」

あーあ。無理に喋るから。

「チャ、ニョルはな…ひとりの、ひとにも…こえを、かけて…てを、さしのべて、くれるんだ…」

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