516.悪い女悪い男 ページ20
＜チャニョル＞
「俺も、魔性に取り憑かれた1人なのかもね」
俺がそう言うと、Aはフッと笑った。
「そんなつもりは、無かったんだけど」
「そんなつもり無かったんならそれは、ただ単に、俺が惹かれたのはAの魅力だろ」
俺は、頬に添えられたAの手を掴んで、引き寄せる。
「そうなの？」
「そうだよ」
俺は逆に、Aの頬に自分の手を添えた。
「どうして、俺だったの？」
「なにが？」
「どうして俺を、特別に扱ってくれたの？カイに出会う前に片想いしてたから？」
入社当時から近くにいたギョンスの名前は覚えてないほど、周りには興味が無かったのに。
特別俺を気にかけてくれて、仕事のアドバイスもくれて。
一緒に飲みに行って、家にまで招待してくれた。
カイという存在がありながら。
「…私なりに、カイから離れようと思って…新しい理解者を、探していたの。なんとなく…それはチャニョルな気がして」
「理解者…俺、なれるかな」
「私のことを理解しなくていい、できないと思うし…ただ…受け入れてほしい」
「…うん。わかった。受け入れるよ。君も、君の罪も、全部」
俺はAの頬に添えた手を引き寄せて、そっと唇にキスを落とす。
Aは、俺の首に腕を回してきた。
「ほんと…？」
不安そうに瞳が揺れる。
「うん、受け入れる」
また俺は、唇を重ねた。
今度は、熱くて、深いやつ。
どうしようもなく、俺は、君を好きになってしまったよ。
地味だったオフィスの隣の席の彼女の裏の顔は、男を誑かして情報を得て殺しの手助けをする、悪い女だった。
彼女をそうさせた、彼女を愛しすぎて暴走しがちな、どうしようもなく悪い男がいた。
これまた彼女を愛し、凄腕の殺しをする凶暴性を抱えた悪い男がいた。
これまた彼女を幼い頃から愛し、自らの手を全く汚さず情報提供だけで悪に加担する悪い男がいた。
そんな彼ら彼女らの、別の顔を見た。
ある悪い男は、ただ幼い頃から一途に好きな女の人を、彼女が変わってしまってもなお、健気に待ち続けていた。
ある悪い男は、自分と別の世界を知り自らの罪を悔い、好きな女の幸せを願って自らの罪を背負った。
ある悪い男は、圧倒的な権力を持ちながら好きな女1人の愛し方が分からず不器用を拗らせていた。
そしてある悪い女は…1人の男に愛されることに囚われ、自らを見失っていた。
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作者名：LUKE | 作成日時：2021年12月22日 5時
