513.無理ね ページ17
＜チャニョル＞
2時間ほどかけて、元来た道を辿り。
Aが前住んでいた家へと、到着する。
「まだ解約してなかったんだな…」
「うん。カイは相当急いで2人きりになりたがってたし」
シートベルトを外して忙しなく降りる準備をする俺と対照的に、おとなしいセフン。
「ここで待ってる」
「うん、わかった」
俺は…大切なファイルがしっかりカバンにあることを確認して、車を降りた。
ここへは、Aに、料理を教えてほしい、と言われて来た以来だ。
部屋番号を入力して、呼び出しボタンを押す。
久しぶりに会うから…やっぱり、緊張する。
『…はい』
久しぶりに聞く、その声。一気に、胸が熱くなる。
「俺…チャニョル、だけど…」
『…どうぞ』
そう言われると、エントランスが開く。
ふぅ、と軽く息を吐いてから、エントランスを抜け、エレベーターに乗った。
久しぶりの彼女は、どんな感じだろうか。
カイと一緒で…衰弱しているだろうか。
そんな姿見たら、俺…。
なんて不安を膨らませながら、彼女の家へと向かった。
ピンポーン
緊張しながらインターホンを押すと、徐に、玄関が開いた。
暗闇の中から姿を現した…彼女。
「久しぶり、チャニョル」
初めて話した時のような感覚を思い出す。
ニコリともせず、ただそれが定型文の挨拶だから口にしているような感じ。
「…久しぶり」
「上がって」
「うん」
短く言葉を交わし、家の中に入る。
部屋の中はかなりすっきりしていて、ぽつんぽつんとインテリアが残されているのみ。
「なんにも、出せるものはないけど」
「いいよ。で…何か、俺に話したいことがあったんだろ？」
Aがソファに座ったから、俺もつられて隣に座る。
「…ううん。別に。会いたくなっただけ」
「…わざわざ、引っ越したはずの部屋に帰ってきてまで？」
彼女は返事もせず、何も無い虚空を見つめていた。
…そっちが話さないなら、こっちは話したいことが山ほどある。
「俺…ちょうど、Aに聞きたいことが山ほどあったんだ」
「…なに」
「まずは…1番聞きたいのは…今、幸せかってこと」
『世界で1番幸せな人は誰か、知ってる？それはね…自分が幸せだと、思い込んでる人よ』
『Aには、その”幸せ”は、なれないよ』
「…チャニョルの言う通り、私には、無理ね」
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作者名：LUKE | 作成日時：2021年12月22日 5時
