508.今のお前じゃ ページ12
＜チャニョル＞
「そして、思ったんだ」
『鎖に繋がれていた時は…俺にとって、あの部屋が全てだった。でも、鎖が取れて外に出て…たくさん、色んなことに気づいたんだ。あの部屋だけじゃない…俺の知らない世界には、たくさん楽しいことがあるんだって！』
『カイカイって…思いすぎなんだよ。Aの人生なんだから、カイに囚われ過ぎないで。カイ以外に、Aを幸せにしてくれる人はいるかもしれないんだよ？例えば〜…チャニョルとか！』
思えばベッキョンの存在は、俺にとって大きかったな。
「Aは、カイに囚われているんじゃないかって。カイ以外にも、Aを愛せることを、知ってほしい。それがきっと、彼女の幸せに繋がると思う」
俺は、カイが床に投げたファイルを拾う。
「今のカイは、Aを幸せにできない。俺はそう思う。だから…」
「それを警察に提出して、俺を物理的にAから引き剥がす？」
いざはっきりそう言われてしまうと…カイの話を聞いた今、すこし躊躇う自分もいる。
「今の俺がAを幸せにできないって、どうして分かる？」
「それは…A自身が、言ってたよ」
『今の、彼は…私のことが、理解できないって…』
そう言って、涙を流したA。
『本当に好きなのか、分からなくなっちゃった…』
「Aは、本当にカイのことが好きなのか、分からなくなったって」
「は…？」
カイは困惑するような表情を浮かべる。Aのことになると、いつも余裕が無くなるんだ。
「いつ…？」
「お前、Aにビンタされたろ。俺と、ベッキョンが鉢合わせた時。その後、俺の家で話聞いた時だよ」
「…嘘だ…」
「嘘だったらこんなにはっきり言えない。初めて…Aが本音を言ってくれたように感じたよ」
「俺には…本音、なんて…」
そう言ってから、カイは酷くショックを受けたように固まってしまった。
「俺…Aとも、話したい。それで、このファイルをどうするか、決めるよ」
俺がそう言っても、カイは動けないようだった。
…とにかく、Aとも話したい。
彼女が犯罪の片棒を担いでいたと知っても…彼女を救いたいという気持ちは変わらなかった。
きっと、カイには話せない本音を、俺には話してくれるだろう。
そんな自信がある。
彼女の居場所なら分かっている。セフンに教えてもらったから。
俺は、VIPルームのドアを叩いた。
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作者名：LUKE | 作成日時：2021年12月22日 5時
