110.実は策士 ページ9
＜チャニョル＞
「前、この話をAにした時、Aが発作を起こしたんだ。そして、ジュンミョンさんから聞いたよ。警察が、2年前のジュンミョンさんの不祥事を揉み消したこと。それでジュンミョンさんも、Aも、善悪を見失ってしまった…そうだろ」
…思ったより、効果があったみたいだ。
ジョンインはドアノブを握ったまま黙って俯いた。
「俺も、ジョンイン君と一緒だ。Aを救いたい、その一心なんだ。Aに…会わせてくれないか」
「…それじゃあ、ヌナからあんたの記憶を消した意味が無くなる」
「何度でも、俺はAに覚えてもらうよ」
「…いらない。ヌナにあんたは必要ない」
「約束したんだ！Aを救うって！」
…本当は、一方的に宣言しただけだけど。
「…そしたら、ヌナは、なんて」
「…わかった…って…」
こんな嘘…ジョンインに通用するだろうか…。
「Aが、望んだことなんだ」
ダメ押しで、そう、付け足してみる。
すると、ジョンインは目を丸くして俺の顔を見た。
「ヌナが、望んだ…」
そう呟き、また俯く。
揺れているのかな、ジョンインは。
自分の気持ちと、Aの気持ち、どちらを優先するべきか…。
なんだか、それで悩んでいるように見える。
と、その時だった。
「あのー…今、取り込み中かな？」
後ろから声がした。
振り向くと…そこには、俺の知らない男性が立っていた。
一重の猫目で…魅力的な雰囲気を漂わせ、高級そうな身なりをしている。
「ミ、ミンソギヒョン…」
ジョンインがそう呟いた。
「あー…Aに呼ばれて来たんだけど…」
「ヌナに…？」
「うん…ジョンインくん、今日が何の日か、忘れてる…？」
「え…何の日…？」
「ギョンスの、命日だよ」
ミンソギヒョン、と呼ばれた男性は、ギョンスさん…Aの旦那さんと知り合いなのだろうか。
と思っていたその時。
「あら…どういう状況？」
この、綺麗な声。
俺の…求めていた人。
「A！」
ジョンインは、しまった、という顔をして、ため息をついた。
「えっと…あなたは…？」
本当に、忘れているのか…？
じゃあ、こうしてみよう。
「俺、パクチャニョルです！生前ギョンスさんにお世話になっていた者で…Aさんのことは、よく伺ってましたよ！」
「まぁ…そうだったんですね。はじめまして。主人がお世話になりました」
…よし、成功だ！
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年7月14日 10時
