薔薇を刺す 3 (ページ44)

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145.普通の男ページ44

＜チャニョル＞

「ねーねーチャニョル！あのお店見たい！」

「わーかわい…ちょっと買ってくる！」

「うわぁ…全然知らないものばっかり…」

Aは、そんな感じでずっと子どもみたいにはしゃいで嬉しそうだった。

Aは2年間ほぼ引きこもりだったと聞いている。

知らないことが案外多かった。

最初は、俺が払うよ、と言ったが、

「借り作るの嫌いだから大丈夫！払わないで、払ったら嫌いになるからね！」

と言って、払わせてくれなかった。

…が、それで良かった。

Aはカードでどんどん物を買う。

しかも…ブラックカード。

やっぱりAはお金持ちだ…。

対して俺は、ごく普通の家庭に生まれ育ち、ごく普通の暮らしをしてきた。

警察官に就職しても、そんなに給料が高いわけでもなく…捜査一課になって給料上がるかな、と思った矢先に謹慎だ。

…俺とAって、釣り合うのかな…。

なんて思っていた。

「ね、ねぇ…A、そろそろ休憩しない？」

俺の両手には、大量の紙袋。

せめて持たせてくれ、と言って持ったものの…さすがに重かった。

「あ…ごめんね、1人で勝手にはしゃいじゃって…」

「ううん、全然大丈夫。あのベンチ座ろう」

「うん！」

ほら、そう微笑んでくれるだけで…俺の疲れなんて、吹っ飛ぶよ。

2人で並んでベンチに座る。

「こんなに買って…大丈夫？」

「うん！ここ、安いから」

…ここで安い、かぁ…普段どんなとこで買い物してんだろ…知りたいような、知りたくないような…。

「チャニョルは何も買わなくていいの？」

「ん？うーん、せっかくだから何か買いたいなぁ…」

「選んであげる！チャニョルに似合う…何がいい？」

「うーん…どうしよっかな…Aが選んでくれるのだったら、なんでもいい」

そう言ってAの目を見ると、Aはふっ、と笑って目を伏せた。

…平日の、昼、かぁ…

チラッと周りを見ると、人通りは少ない。

子連れというより、俺たちみたいな少し大人のカップルがちらほら。

…いっか。

そう思って、俺は軽くAの唇にキスをする。

「なっ…！」

Aは顔を真っ赤にして俺の方を見た。

「あはは！」

それが可愛くて…余裕の無さそうな感じで。

「チャニョル…笑わないでよ！」

「ごめんごめん！でも、したい時にしていいって言ったの、Aの方だろ？」

「もう…」

そう言って、俯いて下唇を噛むA。

…余裕が無いのは、俺だって一緒だ。