薔薇を刺す 3 (ページ4)

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104.遺言ページ4

＜セフン＞

キムジョンデ。

2年前、ギョンスヒョンが死んだ通り魔事件で妻が重体になった。

一命は取り留めたものの、下半身不随。一生歩けない体になった。

そして、彼の看病も虚しく、彼女は、自ら命を絶った。

『この人、見たことある？』

俺が写真を見せると、彼はゆっくりこっちに近寄ってきた。

『あぁ…同じ通り魔事件で旦那さんを亡くした…』

『そう。A。彼女の助けになってほしい』

『…え？』

『彼女は寂しさから殺人を繰り返してる。俺はその手伝いをしてる。彼女が捕まりそうになった時、身代わりになってよ』

『…自分が何を言っているのか、分かってるか…！？』

『うん。彼女の代わりに捕まって』

俺がそう言うと、彼は笑い出した。

『あはは！とんでもない頼みだなぁ…なんで、俺に？』

『あんたはAと境遇が似てるから』

『…この世には、まだ俺の知らないことがあるんだなぁ…』

『やるの、飛び降りるの、どっち』

『…一つだけ、頼みがある』

『なに』

『死ぬ前に…カフェがやりたいんだ。奥さんとの老後の夢だった。定年退職したら、一緒にのんびりカフェでも開こうって』

『ふーん、カフェね。分かった、いいよ』

『あと…一つ聞いていいかな』

『まだ何か？』

『どうして、彼女は人を殺すんだ』

『うーん…人を殺すと、生きてる感覚がするんだって。それに…善悪が、分かんなくなったって』

『善悪…？』

『真っ直ぐに善く生きた夫がなぜ死ななきゃいけなかったのか、悪いことをした犯人はどうして罪も償わずに死ねたのか、って』

『…少し、分かる気がする…僕の奥さんも…善い人だった…僕には…もったいないくらい…』

『ねぇ、あんたは、悪い人を殺すのは、悪だと思う？』

『…分からないよ…善悪なんて、誰が決めるんだ』

『…そう。それが答えね。分かった。じゃ、カフェは用意するから。準備できたらこの番号から電話かかってくるから、よろしくー』

俺は彼に電話番号を書いた紙切れを渡して去ろうとする。

『セフン、くん』

『…なに』

呼び止められ、とりあえず足だけ止める。

『…ありがとう』

『なんで俺に感謝する。俺はあんたにしてもいない罪を被って死ねって言ってる』

『…分からない。でも、なぜか少しだけ…もう少しだけ、生きてみたくなった』

あの時のジョンデヒョンの気持ちは今でも分からないし、これからも分かることはないだろう。

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