123.徐々に近づく ページ22
＜チャニョル＞
1番の問題は、どう連れ出すか。
ギョンスさんの同僚が突然やってきて、その奥さんを連れ出そうとするなんて…下手したら逆に信用を失う可能性が高い。
そうなったらおしまいだ。
絶対に焦るな、と、ミンソクさんにも言われた。
あくまで、自然に。
「ワイングラスと栓抜き持ってきますね」
「はい、お願いします」
…近いのに、遠い。そんな感じがすごくもどかしい。
しばらくして、Aがグラス２つと栓抜きを持ってきた。
「これ…1993年ものの…」
「はい。ギョンスとAさんの生まれ年、ですよね」
これはミンソクさんから譲ってもらったもの。
…さすがに、俺の給料じゃ手が出せなかった。
「まぁ…お洒落ですね。ギョンスの同僚、ということは、チャニョルさんも…？」
「あぁ…俺は早生まれじゃないので、1992年なんです」
「あぁ、そうなんですね」
なるべく、嘘はつかないように。信頼が大事だ。
「では、開けましょうか」
「はい…あ、俺が開けますよ」
栓抜きをもらって、コルクを抜く。
「よいしょ」
そして２つのグラスに赤ワインを注ぐ。
…真っ赤で、綺麗だ。
「おいしそう…はやく乾杯しましょう！」
Aのテンションが高い。
よしよし。
「はい。それでは…乾杯」
心で、Aと出会えたことに、と言いつつ。
一口。
「…おいし」
いつも安物のワインばかり飲んでるからだろうか。
すごく深くてフルーティで…美味しい。
「…ふふ」
Aは俺を見て笑っている。
「ワイン、普段は飲まれないんですか？」
「は、はい…美味しいですね、これ…」
「えぇ…原産は、フランスのボルドー地方…本当にボルドーカラーの良いワインですね」
「そ、そうですね…」
Aはワインを光にかざして眺めているが…俺にはさっぱり分からない。
「…普段は、何をされてるんですか？」
俺は、徐々にAの心に近づいていく作戦を始める。
「普段、ですか…あまり外には出ず…家でのんびりしています。あ、毎日料理は作っていますよ」
俺が言ってから、料理を毎日するようになった、と記憶を無くす前言ってたけど…引き続き、なのか…。
「料理ですかー…ずっとされてるなら、そろそろレシピも同じのばかりになってきませんか？」
「あー…いえ、実はお恥ずかしい話、料理を毎日しだしたのはここ最近で…誰かに言われて…毎日やってみたらって…誰だったっけな…」
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作者名：LUKE | 作成日時：2020年7月14日 10時
