勿忘草は誰が為に (ページ9)

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8.日記と曜日ページ9

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「面白い…」

ポカン、とするジョンインさん。しまった、余計なことを言ったかな…。

「す、すみません…」

「…いえ。そうポジティブに捉えていただけて、嬉しいです」

にっこりと微笑むジョンインさん。

前会った時の少年っぽい微笑みではなく、大人で余裕のある微笑み…少し、ドキッとした。

「今日は、お休みですか？」

「はい、日曜日なので」

「日曜日…」

ジョンインさんはそう呟くと、カウンターに置かれた小さなカレンダーを見て、

「あぁ、日曜日か、今日…」

今度はそう呟いた。

毎日日記を付けていると言っていたのに。

「はい、そうですよ。今日から、日記には曜日も書かなきゃですね」

「え？あ…はは、そうですね」

余計なお世話だったか、ジョンインさんは少し苦笑いをした。

「曜日関係なく、毎日働いてるからなぁ」

「定休日とか、作らないんですか？」

「はい。あんまり疲れないんですよ。記憶無くした後の仕事は毎回新鮮だし、記憶無くなってくれるから働いたって感じしないし」

「へぇ…」

疲れずに仕事ができるなんて羨ましい、なんて思いつつ。

記憶を無くすことは、それ以上の苦しみの方が大きいだろうから、そんなことは口にできなかった。

それから、他愛もない話をしていたら、ふと時計を見ると1時間も経っていた。

そろそろ帰ろうかな。

私以外にお客さんは1人も来なかったけれど、あんまり長居してもなんだか悪いしな。

「ごちそうさまでした」

「あぁ、お帰りになるんですね」

「あんまり長居しても良くないかなって」

私はそう言って立ち上がり、財布を取り出す。

「僕はあんまり気にしないですけど」

「ふふ…この前と言ってることが違う」

「え？」

「この前は、もう来ないでくださいっておっしゃってたので」

「そんな…僕、酷いことを」

「いえいえ、理由は分かりましたから」

新しい人間関係を築いたとしても、記憶を忘れて結局また0からになってしまう。

たとえその人のことを日記を付けていたとしても、実際に話すのはまた違うから限界があるだろうし。

大変だから、あんまり交友関係を広げたくないのかもしれない。

なんて、全部私の妄想だけど。

「250円になります」

「はーい…」

財布から200円玉2枚と50円玉1枚を取り出し、カルトンに置いた…

にもかかわらず、彼は、私の財布をぼーっと見つめていた。

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