6.再び来店 ページ7
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健忘症…。
きっと、違和感に思った２つ目の、微妙に距離を感じる、と思ったのは、そのせいなのだろう。
親しくなっても、忘れてしまうから、意味が無いのか…。
『…気にならないんですか？』
『うーん…まぁ、気になるけど…聞いても、意味無いから』
あれは、そういう意味だったのか。
そう、病院から帰って彼にもらった栄養補助ゼリーを飲みながら、考えた。
けれど、彼が忘れていたとしても、彼が私を助けてくれたことは事実なわけで。
自分の性格上、お礼をしないと、気が済まなくて。
風邪が治ってから、彼のお店を訪ねることにした。
確か…ここだったよな。
日曜日のお昼。
ついでにご飯を食べようと、彼のカフェを訪れた。
ギーッ、と扉を開けると。
「いらっしゃいま…」
カウンターの中にいた彼は、店に入ってきた私を見て、びっくりするような顔をして固まった。
あれから1週間経ってないし…もしかして、まだ覚えてる？
「どうも…お久しぶりです」
「え…あ…お久し、ぶり、です…」
ぎこちなく笑うジョンインさん。
「あの…私のこと…」
「あ、えっと…」
ジョンインさんは気まずそうに少しの間目線を逸らして、
「もしかして、僕、この前あなたに傘を渡そうとしました？」
覚えているような、覚えていないような言い方で、そう聞いてきた。
「え、えぇ…」
「やっぱり、そうなんですね」
私が答えると、ジョンインさんは今度はにっこりと私に向けて笑った。
「あ、どうぞ、こちらにお掛けください」
彼に不思議に思って突っ立っていた私を、彼はカウンター席へと促す。
私はジョンインさんに示された椅子に座った。
「ご注文は、何を？」
切り替えるように接客モードになった彼に流されるまま、とりあえずコーヒーを注文した。
彼がコーヒーを淹れている間、私はじーっと彼の手つきを見ていた。
頭では記憶を無くしても、手は覚えているのだろうか。
流れるように慣れた手つきで、あっという間に湯気の立った美味しそうなコーヒーがカップに注がれた。
「どうぞ」
混ぜる用のスプーンとコーヒーフレッシュを添えて、コトリ、と静かに目の前にコーヒーを置くジョンインさん。
「どうも」
私はフレッシュをコーヒーに混ぜて、一口飲み、ふぅ、と息を吐いた。
そして、気になることを聞いてみようとした。
「あの、」
「日記をつけてるんですよ」
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作者名：LUKE | 作成日時：2021年9月7日 9時
