41.勿忘草は誰が為に-完結 ページ42
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「違う…」
私が、ジョンインさんのことを、忘れていたとしても。
「私…ジョンインさんが、好き…」
「え…？」
「忘れたなら、また始めよう…？私の記憶は、あなたが持ってくれてる…代わりに私は、あなたの記憶を、持ってるから…」
「A…」
「記憶を失っても、また同じあなたに恋をしたの。きっと…それくらい、私はあなたのことが、好きなの」
私がそう言うと、ジョンインさんは目を開いた。
そして、フッと柔らかく目を細める。
「俺も…同じ。Aを、諦めようとしたのに…俺を忘れてるAに、また、恋をしたよ」
「おはよう、ジョンイナ」
「ん…あれ…A…？なんで、ここに…」
「ふふっ、なんでだと思う？」
「え…俺は…Aと喧嘩して…事故で…」
何度目の、朝だろう。
彼は、1週間に1度のペースで、事故に遭って以降の記憶を無くしてしまう。
私と喧嘩別れをして、時が止まっている。
その度に、そんな彼の時を、私が動かすの。
「そんなに酷かったの？私との喧嘩」
「…うん。思い出したくないくらい」
「そっか…」
「それまで仲良過ぎて、一度も喧嘩したこと無かったから」
私が無くした記憶は、彼が持っている。
「でも、俺たち、仲直りしたんでしょ？」
「うん！それで、また付き合ってるの」
「そっかぁ…それは良かった！」
そう説明する度に、彼は嬉しそうにする。
「ごめんね…せっかくAと新しく過ごした時間、忘れちゃって…」
「もう、謝らないで。代わりに、私たちの出会った頃の思い出はジョンイナが持ってるんだから」
「…いつか、僕が持つ記憶より、Aの持つ俺たちの記憶の方が、長くなる」
「あら、それは幸せなことじゃない？私たちがそれだけ長く、2人の時間を新しく重ねてるってことよ？」
「あ…そっか…」
ジョンインにぎゅっと後ろから抱き締められて、自分より大きい体に包み込まれる。
「忘れちゃうのは寂しいけど…Aがその分覚えているなら、いいや…」
「ね、また話してよ。私たちが出会った時のこと」
「うん、いいよ。あれはね、桜が満開の………」
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店先で、勿忘草の花が、風に吹かれてそよそよと揺れる。
ジョンインが育て始めた時よりも、随分と増えたそれは。
これからも、2人の思い出と共に、増え続けることだろう。
『勿忘草は誰が為に』 完
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作者名：LUKE | 作成日時：2021年9月7日 9時
