39.忘れないで ページ40
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「風邪、ひきますよ」
「…あなたこそ」
そう返されて…あぁ、Aらしいなぁ、とジョンインは思った。
懐かしいなぁと思い、それと同時に…本当に、自分のことを忘れているんだと思って、彼は泣きそうになった。
「僕は大丈夫ですから。これ、持って、帰ってください」
Aと話せたのは嬉しいけど…あまり話すと、Aが自分のことを思い出すかもしれない。
それと同時に…彼女の忘れたかった過去も、思い出させてしまうかもしれない。
彼はそれが怖くて、さっさと帰そうとした。
それに、今溢れそうな涙を…雨で、誤魔化したかった。
だが、
「いらないです。ありがとうございました」
そう、ジョンインはAに突き返された。
Aは、雨の中に消えて行った。
返された傘が、彼の手からすり抜け、水溜りに落ちてバシャッと音を立てる。
そのまま、雨に打たれ、彼の涙はその雨に流れた。
彼女の人生に、もう自分はいらないんだろうか。
そう、ジョンインは考えた。
その時は。
けど、ジョンインはAを見ると、まだ記憶がリセットされてないのに、そのことを忘れてしまって。
風邪を引いた様子で仕事に行こうとするAが心配になって引き留めて、店に入れた。
けれど、やはりAが自分を思い出すのは怖くて、ジョンインは自分が健忘症であることを理由に、あまり関わらないようにした。
どうせ自分は記憶を無くすんだから、と適当に関わろうとした。
でも、
『ちょっと出かけてくる。飲み終わったら帰っていいから』
そう言ってもAは1人で帰ることはしないだろうと思いながら、Aが心配なジョンインはコンビニに行って色々買ってきてしまい。
そのせいで、余計Aに自身を印象付けてしまったようだった。
しまった、と思い、ジョンインは自分が健忘症であることを、はっきりAに告げた。
深く自分とは関わらない方がいい、という気持ちを込めて。
するとAは、言った。
『はい。あなたが忘れても、私は覚えていますから』
その日、Aが帰ってから、ジョンインは何度も何度も、その言葉を頭の中で繰り返した。
Aが忘れた代わりに、自分がAを覚えていて。
自分が忘れる代わりに、Aが自分を覚えていてくれる。
その関係性が、ジョンインにとっては堪らなかった。
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作者名：LUKE | 作成日時：2021年9月7日 9時
