38.また会う ページ39
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そんな折。
「え…」
ジョンインが朝の日課の水やりをしながら、ふと道ゆく人を見ていると。
彼女らしき人物を、見つけた。
朝の通勤時間で人が行き交う中で、彼女だけが、彼の目には映った。
まるで、初めて会った時、花吹雪の中で彼女しか見えなかったように。
「A…」
ジョンインのことなど気に留める様子すらなく、ただ通勤の波に消えていく。
でも、確かに、あれはAだった。
それから、毎朝の通勤時間、そして夕方の退勤時間。
彼女を見つけるのが、彼の日課になった。
『朝と夕方、Aが店前の道を通る』
忘れても思い出せるように、冷蔵庫にそう貼っておいて。
『○月○日7:15 今日は寒かったからマフラーをしていた』
『○月□日19:20 今日は遅かった。残業だったのかな。少し疲れているように見える。心配』
日記感覚でAの様子をメモするのが彼にとって日課になっていた。
話しかければいいじゃないか、と言われそうだが…彼にとってはそれでよかった。
彼女が自分のことを忘れたのは、自分のせいも少しある、それに、A自身に健忘症があるのに、自分の健忘症の面倒まで、見させられない。
そして自分を思い出すということは…同時に、忘れたかった記憶も、思い出すということだ。
それが、ジョンインは怖かった。
それにAには、彼氏もいた。
たまに、Aが背の高い男の人と一緒に歩いているのを見ることがあった。
楽しそうで…幸せそうで。
きっと、あの人が彼氏なんだろうな、と思って。
胸が、きゅっと締め付けられる思いがしながら。
Aが幸せなら…という思いもあった。
幸せそうなAが見れるのは、彼にとっても幸せだった。
毎回記憶を失う度に、彼はそう思うことにした。
だが。
ある日、土砂降りの日。
ジョンインが店を片付けていると、窓の外に人影が見えて。
思えば今日はまだAを見ていないな、と思いながら、よく人影を見ると。
それは、傘を差していない、Aだった。
ジョンインはびっくりして、慌てて、そのまま深く考えず、傘を持って飛び出した。
「…風邪、ひきますよ」
なんて言えばいいか分からなくて。
本当に、Aは自分のことを忘れているのか、信じがたくて。
ジョンインは恐る恐る、傘を差し出してみた。
彼をじいっと見つめたまま、Aは固まった。
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作者名：LUKE | 作成日時：2021年9月7日 9時
