2.昨日の彼 ページ3
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「はっくしゅん！！」
翌日、案の定、風邪を引いた。
あんな雨の中を傘もささずに帰ったのだから、当たり前だ。
でも、私は会社に向かっていた。
周りから呆れられるほど、変に責任感が強いのだけど。
でも、恋人にフラれてショックで雨の中傘ささずに帰って風邪引きました、会社休みます、なんて、馬鹿すぎない？
そう思いながら、季節に似合わないニットのカーディガンを羽織り、マスクをして、明らかに病人です、という格好で会社に向かう。
たぶん、熱もあるから、体が重い。
いつもの二分の一とも思えるスピードで歩いていた。
しかもこの道は、昨日フラれた帰りに通った道で。
ますます嫌な記憶を思い出して、気分が悪くなっていた。
今日は雨が降っていないけど、昨日の雨の名残りの水溜りに、自分の酷い顔が映って嫌になる。
今すぐにでも踵を返して家に帰りたかったけど、変な責任感とプライドが、許さなかった。
ひたすらに重い体を引きずって、駅までの道のりを歩いていた。
「言ったじゃないですか」
ふと、聞き覚えのある声がして、反射的に立ち止まる。
声のした方に目をやると。
「…昨日の…」
「どうも」
昨日、私に傘を差し出してきた、あの男の人だった。
昨日の雨の中で見た彼とは違い、晴れている今日は好青年、といった印象で、エプロンをして、ジョウロを持って…なにやら、店先の花に、水をやっているようだった。
「体調、悪そうですね」
「…大丈夫です」
「いや、大丈夫じゃないですよね」
彼は、私のことを上から下まで見た。
「もしかして…それで会社、行くんですか？」
「…ほっといてください」
私は彼から目を逸らして前を向き、再び歩き始めた。
昨日はきっと、雨の中傘をささずに歩く女を心配して、その親切心で声をかけてくれたんだろう。
そして今日は、体調の悪そうな女を見て心配してくれたんだろう。
優しい人なんだろう、きっと。
でも、私からしたら見ず知らずの人なわけで。
よく知らない人に助けてもらうのは、抵抗があった。
「待って」
彼はまた、昨日のように私の手を掴んだ。
「大丈夫ですから…」
なぜ、私にそこまで関わろうとするのか分からない。
優しくされすぎると、逆に不安になる。
私は彼の手を解こうとした。
「意味無いよ、そんな体で会社に行ったって。どうせ仕事出来なくて、周りの人に心配と迷惑をかけるだけだよ」
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作者名：LUKE | 作成日時：2021年9月7日 9時
