16.届けにきました ページ17
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お店のエプロンを付けたままの姿で、身一つ…いや、何かを握っている様子…
「取り込み中でしたか…すいません、これだけ、すぐ届けなきゃと思って…」
そう言ってジョンインさんがこちらに差し出してきたのは、紛れもなく私の財布だった。
「あ…ありがとうございます！これ、どこに？」
「カウンターの下に…掃除してたら見つけて、さすがに困ってるだろうなって…勝手に運転免許証見て家に来ちゃいました…すいません」
「い、いえいえ！ちょうど困ってたんです！ありがとうございます！」
さっきとは打って変わって、ジョンインさんに対しては声が弾む。
「すいません、お取り込み中、お邪魔して」
「い、いえ、お邪魔なんて…」
チラリとチャニョルの方を見ると、眉を顰めて私とジョンインさんを見比べていた。
「じゃあ、僕はこれで」
「あ…はい」
本当は、本当に本当に、行って欲しくなかったけれど。
ここに引き留める理由が見つからずに、呆気なくジョンインさんは見えなくなってしまった。
「…どういう、関係？」
「…関係ないでしょチャニョルには」
「親しそうだったね」
「ただの行きつけのカフェのオーナー」
もう別れたというのにやきもち焼きを発揮するチャニョルに適当に返しながら、返してもらった財布の中から鍵を取り出す。
…そうか、サービスもらったから財布が落としたことに気づかなかったんだ、なんて思いながら。
「へぇ、名前も教えるくらい親しいんだ」
その言葉に、ふと手が止まる。
名前…
『あの…せめて、名前だけでも…』
『名前…』
『はい。あなたが忘れても、私は覚えていますから』
『…キムジョンイン、です』
彼の名前は、自分から聞いた。
でも…
私、いつ、名前、教えたっけ…？
「…A？」
「あ、いや…」
名前を呼ばれてふと我に返り、慌てて財布をカバンの中に仕舞う。このカバンは処分だな…もう何年も使っていたから、仕方ないか。
「退いて、家、入るから」
鍵を手に入れた私は、エントランス前に立ち塞がるチャニョルを避けるようにすり抜けようとする。
しかし、パッと手を掴まれて。
「あの人、やめといた方がいいと思う」
「…は？」
どうして別れたあんたに今の私の人間関係をどうこう言われなきゃいけないの、とイラついて顔を上げると、チャニョルは、あまりにも真剣そうな顔をしていたので、足を止めてしまった。
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作者名：LUKE | 作成日時：2021年9月7日 9時
