愛の彫刻は消えない【宇髄天元／煉獄杏寿郎】

hollow ページ10

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こんなにも分かりやすい傷を残して、最後は他人の顔をした宇髄さんが許せなかった。


あれからどうやって家まで帰って来たのかは、思い出せなかった。
宇髄さんの元から遠ざかれば遠ざかるほど痛みを増す胸の奥と、じくじくと痛み出す黒い薔薇。
上着には微かに、宇髄さんの香りと、彼が吸うタバコの匂い。


私はそのままベッドに身を沈めた。
服を脱ぐのが怖かった。

彼が残した爪痕を直視出来るほど、私は強くないから。
一瞬の気の迷いだったと、あのスタジオに手招きする彼を想像しながら浅い眠りについた。





現実味のない朝。
スマホの通知はスケジュールの通知も含めて、0件。



…あぁ、そうだ。
最初から、こうなる筈だった。



だって私は、宇髄さんの連絡先すら知らなかったのだから。
そこに行けば彼に会える。会えば、また次がある。
連絡先を聞く会話すら惜しいほど、夢中だった。
私といる間は、私以外の何にも触れさせたくなかった。



『…はぁ、馬鹿らし。』



どうせなら、宇髄さんに言われたかった。
馬鹿な女、愛してない、そう言って突き放してくれたらどんなに良かっただろう。



ふらふらとお風呂場へ行って、シャワーを浴びた。
固く目を閉じて、黒い模様から意識を遠ざけた。



初めて抱かれた日に着ていたワンピースに袖を通した。
ファスナーが背中を上っていくほどに、私の中で鬱蒼(うっそう)としていた気持ちは少しだけ軽くなった気がした。



会いたい。
抱いてくれなくてもいいから、会いたい。




今日はちゃんと、名前を呼んで振り向く彼を、抱き寄せて、口付けをするんだ。





スタジオまで行く途中、何度も笑う練習をした。
泣かずに、とびきりに笑ってやろうと思った。
彼にとって、1番要らない表情を……









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