愛の彫刻は消えない【宇髄天元／煉獄杏寿郎】

Heart beat ページ1

.




お洒落のつもりだった。
アクセサリーをつけるような感覚で、一生ものの模様を体に入れた。


人生初のタトゥーは手首の内側、腕時計をすれば隠れる場所に、心電図のようなモチーフを選んだ。



「温泉とか、行けなくなるのは平気？」

『んー、それはちょっと悩んだけど、
　でもどうしても入れてみたくて。』


そっか、とだけ言った宇髄さんは、私が持ち寄ったデザインの下絵を作っていた。

夏なのに、グレーのパーカーをフードまで被って、煙草を咥えて。


『ねぇ、宇髄さんの目元ってタトゥーなの？』

「いや、これはメイク。」

『そうなんだ。タトゥーにしないんだね。』

「あー俺、見えるとこには入れない主義だから。」


これでどう？と見せられたデザインは自分のイメージとピッタリで、たくさん調べてこのスタジオにして良かったなって思った。


早速下絵を手首にトレースすると、急に現実味が帯びて、緊張が高まった。
これから、私は自分の体に模様を刻むのだ。


「白インクでいいんだよな？
　地味だし、消えるリスクもあるけど。」

『うん。
　消えない引っ掻き傷みたいで可愛いから。』

「あー、ちょっと分かる。」


そう言って、宇髄さんは少し笑った。
顔の半分はフードで隠れて見えなかったけど、自分よりお洒落な人が共感してくれたことに、凄く快感を覚えた。



ちくりと、皮膚を削るような痛みに顔を歪める。

ネットでは、シャーペンで皮膚の上を刺すくらいと書いていたのに、思っていたよりも痛い。はやく、終わって欲しい。


「痛い？」

私を見た赤紫の瞳が楽しそうに光る。

『思ってたより、痛い。』

「Aちゃん、痛みに弱いんだ？」


嬉しそうに微笑む宇髄さんに、何故だか胸が高鳴って、先ほどまでの痛みはどこかへ行ってしまった。


『宇髄さんと話してたら、平気になった。』

「はは、可愛いこと言うじゃん。」

『…どきっとした？』


今思えば、何故あんなことを言ってしまったんだろう。
あれ以上踏み込まなければ、私の体はもっと、綺麗(まっさら)だったのに。




「痛みに顔歪めてる時は、ドキッとしたよ。」



ミミズ腫れのような心電図が、僅かに疼いた瞬間だった。






.

Libra→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す