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※嘔吐表現あります
不穏な声が聞こえてくる。「なんで急に」「説明して」と、温厚なその人が珍しく声を荒らげていて、電話を切ったころには顔色が青く息も荒くなっていた。
康「……先生？」
薬が回ってきてふらふらとした足取りでその人の後をついていくと、スマホを握りしめたまましゃがみこんで苦しげに呼吸しているのが見えた。
康「……どうしたんですか、」
自分もしゃがんで声を掛ける。
「振ら、れた……」
返ってきたのは、予想すらしていない答えだった。
康「振られた、って……」
「彼女……。来月、他の男と結婚するからって……っ、ぅ、」
そう言ってトイレに駆けこんで吐きはじめたその人の背中を、俺はさすることしかできなかった。
「俺のこと愛してるって、……ぅ、来年になったら結婚するって、うぅ、……ゲホッ、うっ、」
ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしりながら胃の中身を便器に叩きつけて、嗚咽する。
ここまで取り乱したその人の姿を見るのは初めてで、こんなに一途にひとりの女の人を愛しているのが、ばかみたいに悲しかった。
端整な顔をぐしゃぐしゃに歪めて、吐くものがなくなるとその人は棚をひっくり返して過去に飲んでいたという睡眠薬を全てテーブルの上に叩きつけた。
ハルシオン、ラボナ、ロヒプノール、……どれも簡単に処方されないような薬ばかりで、その人が眠れずにどれだけ苦しんでいるのか
――そして、今からなにをしようとしているのか、一瞬で察してしまった。
康「先生やめてや、癖になってしもぉたら……」
そう薬を取り上げようとしても、「ごめん」と阻まれてしまう。
「……ごめん、ちょっと放っておいて。今日だけだから……ほんと、……ごめん、」
過呼吸を起こしかけながらアルコールで薬を流しこんでいくその人を無理に止める権利なんて俺にはなくて、それ以上はなにも言えなかった。
……なにも考えたくなくて沈んでしまいたくなるほどのあの絶望は、痛いほど知っていたから。
「……迷惑かけるかもしれないから、もう帰って」
しゃがみこんだまま手で顔を覆って嗚咽しながらその人はそう口にしたけど、こんなボロボロの状態の人を置いていけるわけがなかった。
でも、心配しているうちに飲んだ薬が効いてきて、俺は眠ってしまった。
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ちゃん(プロフ) - このお話大好きです！この世界線の短編集見たいですm(_ _)m (2021年3月31日 22時) (
レス) id: e63cb97fa8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆら(プロフ) - このお話大好きなのでこの世界線のお話まだまだ読みたいです！！よろしければよろしくお願いします。 (2021年3月30日 22時) (レス) id: 42dbeff197 (このIDを非表示/違反報告)
向かい風 - あべこじで康二君がメンバーにくっつきすぎて阿部ちゃんが嫉妬する話がみたいです!!彼女枠は康二君でお願いします!! (2021年3月30日 22時) (レス) id: 500150795e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぺんぺん | 作成日時：2021年3月21日 0時
