6 ページ6
彼が連れて行ってくれたのは、個室がある日本料理のお店だった。
｢誘っといてなんだけど、俺、店とかあんま知らねんだ｣
そこは、日本人のサッカー仲間とよく来る所らしい。
唐揚げを頬張りながら何人かの名前をあげてくれたけれど、あまり解らなかった。
食事をしながら沢山話した。
いや、しゃべっていたのは私ばかりで、なんであんなにおしゃべりだったのか、今なら解る。
緊張していた。ドキドキしていた。
でも彼といると、とても楽しかった。
なぜこっちで仕事をしているかを問われ、それを話しながら思った。
そうだ。
楽しいけれど。
今は楽しいけれど、でもあと2年経ったら私は日本へ帰るのだ。
やはりこのまま流されては駄目だ。
｢なので2年したら千葉へ戻るの｣
だから楽しいのは今だけよ。
｢ふーん｣と言って、彼はテーブルの上の自分の手を見た。
少し怒ったような顔をしていた。
何を考えているのだろう。
私は、2年後の話をしたら少し冷静になれた。
私も彼の手を見た。
彼の小指のほくろを見ていた。
私が食事に行けないと言った理由を、彼は解ってくれただろうか。
｢ねえ｣
呼ばれて顔を上げると、彼はもういつもの笑顔に戻っていた。
｢名前、どういう字なの？｣
名前？
｢ネームプレート、アルファベットだから。どういう字書くの？｣
｢ああ、えっと･･･｣
なんだか照れくさくて名刺を渡した。
彼はすごく笑った。
名刺とか、ウケんだけどって。
笑うと目尻に皺が出来て、端正な顔がたちまち人懐っこい表情になる。
｢これからはAって呼ぶからさ｣
いや、だから、これからって。
｢だからAも、もう内田さんじゃなくて、篤人って呼んで？｣
なっ！
無理だから！
そんな風に首を傾げて可愛くお願いしたって無理だから！
っていうか、それ、わざとやってるでしょう？
｢無理だから･･･｣と、ぶつぶつ言っていたら、
｢俺、トイレ｣
･･･出て行ってしまった。
顔が熱い気がして、バッグの中から鏡を出そうとしたら携帯が鳴った。
病院からしか架かってこないような私の携帯。
なんでこんな時に、と思いながら、急いで出ようとしたら、戻って来た彼が、私の手からそれを取り上げた。
｢これ、俺の番号ね｣
そして、ちょっといじってから返してくれた。
見ると、その番号は＜あつと＞と、登録されていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 395人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「芸能人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
馨子(プロフ) - さゆさん» さゆ様、初めまして。ｺﾒﾝﾄありがとうございます。こちらのお話は、半年近く前に一応完結しているのですが、私もたまに、あのふたり、今頃どうしているかなと考えたりします。楽しんで頂けたようで良かったです。今後も宜しくお願い致します。 (2014年5月1日 15時) (
レス) id: f72e0ba777 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ(プロフ) - すごく面白かったです。素敵な作品をありがとうございました。キュンキュンきて、もう終わっちゃったーと残念です。続きが読みたくてたまらないです(笑) (2014年5月1日 14時) (レス) id: 6fd6da2112 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - ManAさん» ManA様、いつもありがとうございます。楽しんで頂けて良かったです。嬉しいです。新作も頑張ります！ (2013年12月3日 2時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
ManA(プロフ) - 最後まですごく楽しく読ませていただきました！本当にｷｭﾝｷｭﾝでした笑笑また新しく更新されるの楽しみにしてます☆ (2013年12月3日 0時) (レス) id: 669658a306 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - りくさん» りく様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。最後までお読み頂いた事、感謝致します。今日の試合はご覧になりました？篤人さんが出なかったので少々消化不良気味ですが、勝ったので良しと致しましょう。新作、頑張ります。またのお越しをお待ち致しております。 (2013年11月20日 14時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：馨子
| 作成日時：2013年10月17日 17時
