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『12月の半ば頃だったか、病院のエントランスでウシにばったり会った』
私は無言のまま、フランツの口許を見る。
ああ、この人は知っていたんだ。
『普通に歩いていたから、まさか怪我とは思わなくて、Aに会いに来たのかと冷やかしたら、彼女には黙っていて欲しいと言われた。すまなかったね』
『…余計な気を遣わせて申し訳ありません』
フランツは、首を横に振りながら、
『心配かけたくなかっただけだろう。男ってそんな風に強がるからね。…それに、あの時期、Aはひどく忙しかったしね？』
『…ええ』
『でも、すごく楽しそうだったよ』
仕事とレポートと篤人の事で、忙しくて、悩んでいたあの頃が楽しそうだった？
フランツにはそう見えていた？
『Aが楽しそうにしていた理由は、ウシだよね？』
『私、そんなに顔に出てました？』
『君が自分で思っている以上に』
・・・ため息しか出ない。
『まあ、この2年間、君の一番近くにいたのは僕だから』
フランツは前の車のテールランプを見ながら続ける。
『実は、君の仕事や勉強に響かないように、Aの連絡先を教えろと言ってくるスタッフを、僕は何人か蹴散らしてきた』
『え？』
『こういうの、日本語で何て言うんだっけ？ 人の恋愛を邪魔する人は』
『…ああ、馬に蹴られて死んじまえ、です』
『そうそう。だから、僕は沢山馬に蹴られないといけないんだけど、そんな僕の努力は無駄だった』
フランツは私をちらっと見た。
『ウシはあっという間に君の心を掴んでしまった。さすが、シャルケのサイドバック。駆け上がりは早く、攻めるタイミングは見逃さない』
『褒めすぎです』
『女の人にとっては、恋愛は仕事の邪魔にはならないんだね。むしろ、その逆だ。そして、このところのAは前にも増して、とても綺麗になった』
アパートの前に車を停めると、フランツは私の頭を撫でながら笑った。
『僕はドイツでの君のおとうさんだから、何かあったらいつでも言って？』
『ありがとうございます』
『ウシはきっと大丈夫。 そして、君は何をすべきか、もう解ってる。じゃ、また明日』
『ありがとう。おやすみなさい』
車を降りた。
そして、駐車場に停まっている篤人の車を見つけた。
でも、今日の私は駆け出さない。
私の部屋で傷んでいる、片翼を折られた篤人の姿を思うと、正直、足が重かった。
私は何をすべきか解っていると、フランツは言ったけれど、私にはそれが何か解らない。
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馨子(プロフ) - さゆさん» さゆ様、初めまして。ｺﾒﾝﾄありがとうございます。こちらのお話は、半年近く前に一応完結しているのですが、私もたまに、あのふたり、今頃どうしているかなと考えたりします。楽しんで頂けたようで良かったです。今後も宜しくお願い致します。 (2014年5月1日 15時) (
レス) id: f72e0ba777 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ(プロフ) - すごく面白かったです。素敵な作品をありがとうございました。キュンキュンきて、もう終わっちゃったーと残念です。続きが読みたくてたまらないです(笑) (2014年5月1日 14時) (レス) id: 6fd6da2112 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - ManAさん» ManA様、いつもありがとうございます。楽しんで頂けて良かったです。嬉しいです。新作も頑張ります！ (2013年12月3日 2時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
ManA(プロフ) - 最後まですごく楽しく読ませていただきました！本当にｷｭﾝｷｭﾝでした笑笑また新しく更新されるの楽しみにしてます☆ (2013年12月3日 0時) (レス) id: 669658a306 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - りくさん» りく様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。最後までお読み頂いた事、感謝致します。今日の試合はご覧になりました？篤人さんが出なかったので少々消化不良気味ですが、勝ったので良しと致しましょう。新作、頑張ります。またのお越しをお待ち致しております。 (2013年11月20日 14時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：馨子
| 作成日時：2013年10月17日 17時
