消えない愛をチョコにこめて ページ8
今日も今日とて東境の見回りをする三島暁人のところにも、バレンタインの連絡は届いていた。
「お、今年もなんか美味しいお菓子用意してんのかな？……霧雨さん、見回り終わったらみんなに配る用のお菓子でも見に行こうぜ」
「お菓子……なんで？」
霧雨亡霊区域はきょとんと首を傾げた。いつもの恒例行事ではあるのだが、毎度毎度彼女の記憶から消えてしまうため、暁人はあらゆる季節行事について毎年説明してやるのだった。
「……要するに、親しい人にお菓子を贈るイベントってことだな。手作りの方が格上！とか言う人もいるみたいだけど、売ってるお菓子の方が美味いし食中毒とかも怖いしな〜」
「手作りのお菓子……」
横に並んで歩いていた二人だったが、ふと霧雨亡霊区域の歩みが止まった。
「お、どした？」
「暁人さん、みんなに手作りチョコ配ろうよ」
「……え」
霧雨が珍しく自分から意見を発した。それ自体は暁人にとって嬉しいことではある。嬉しいのだが問題は「手作り」にある。
以前、夕飯を作っている際に「何か手伝いたい」という彼女にやらせてみたところ、それはもう二度と思い出したくないようなシロモノが出来上がってしまった。他の都市伝説と共に料理を練習させてみたことはあるもののことごとく失敗ばかりで「絶対に霧雨を台所に立たせない」と心の中で誓っているほどだ。
「いや、その……手作りって意外と高くつくし、その予算で良いお菓子を買う方が良いんじゃないか？」
「でも料理って楽しいし、みんなにも……心のこもった、っていうのかな。そういうお菓子、食べて欲しいんだ」
「ならラッピングとかに凝るのはどうだ？メッセージカードを添えたり、一個一個マステとかシールでデコった箱とか封筒に入れたりしてさ」
「それもいいね。手作りのお菓子に、手書きのメッセージカード……みんな、喜んでくれるかな」
暁人は「話が違うぞ！」と心の中で呟いた。普段であれば数秒前に話していたことさえころりと忘れるような彼女なのに、なぜか今日は手作りにやたらとこだわっている。彼女の意思を尊重してやりたいのももっともだが、それ以上に「アレ」をボーダーメーカーたちに配ることだけは回避しなければならないというのに。
「いっぱい準備しなくちゃ……暁人さん、私の代わりにちゃんと覚えててね」
「任せとけって」
暁人は密かに祈った。
霧雨が料理したい気分をすっかり忘れてくれますように。
ラッキーカラー
あずきいろ
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