ひねくれ乙女のバレンタイン ページ7
銀鏡蓮華は今日も、ファンシーな部屋で銃撃戦のゲームを嗜んでいた。ヒビだらけで見えづらいスマホでエイムを合わせる彼女の目に、ぴこんと通知が飛び込んできた。
「2月の定例報告会ではバレンタインのプレゼントを用意します!みんなも好きなお菓子を持ち寄ってね!(苦手なモノがあったら教えてね)by赤」という長ったらしい文章を読んでいると、いつのまにか蓮華のPCは腹を撃ち抜かれ倒れていた。
「ああもう、なんでこんなタイミングで……」
むしゃくしゃした彼女はアプリを終わらせ、返信を打ち返す。
「『了解🫡‼️チョコレート🍫楽しみだナ😊😋』……っと……そうか、もうそんな時期か」
蓮華は過去のことを思い返す。学生時代、親友がいた頃はよく友人たちと菓子パをやったりチョコを溶かして固めただけの手作りチョコを交換したりしていたが、今となってはボーダーメーカーの仕事ばかりでそんなことをする機会も減っていた。
「ローザ、バレンタインって知ってる?」
蓮華は隣で静かにファッション誌を読んでいたローザに声をかける。ローザはぴくりと眉を動かすと不快そうに言った。
「……貴方の漫画で読んだわ。男どもがチョコを指標にいかに異性にモテるか誇示する祭りでしょう?そんな穢らわしいもの、私はごめんよ」
「……えっと、嫌いってことでいいんだな?」
「ええ、そうよ」
そういえば、彼女は愛の話はあまり好きではなかったな、と思い返す蓮華。ローザはバレンタインが好きでないとしても……せっかくのバレンタイン、先輩や後輩に義理チョコの一つでも贈るのが道理だろう。
「じゃ、お菓子作りは?」
「それはメイドのやることでしょう?」
「……」
仕方ない、ここは一人でなんとかするしかないようだ。
蓮華は早速スマホで「バレンタイン 手作り 簡単」とレシピを調べ、「材料3つ!簡単ガトーショコラ」というレシピを発見した。卵と粉とチョコを混ぜて焼く、シンプルなものだが簡単そうだし、少なくともアルミカップに溶かしたチョコを入れて砂糖粒の飾りをまいただけのチョコよりは見た目も立派でそれらしく仕上がりそうだ。
早速必要なものを眺めてみるが、クッキングシートも型も持ち合わせていないことに気づいた。
「ちょっと買い物行ってくる」
「なら、ついでに新作のコスメを買って来てちょうだい」
「しょうがないな」
蓮華はローザに渡された雑誌の切り抜きを雑に鞄に詰めて、菓子作りの材料を買いに行った。
ラッキーカラー
あずきいろ
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