都市伝説たちのバレンタイン【派生作品】 (ページ2)

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冬の日の少年ページ2

暗く静かな一軒家に、ガチャリと鍵の開く音が響く。無言で扉を開ける家主の方へ、とてとてと駆け寄る足音がひとつ。

「おかえり、ご主人っ！」

「……雪、どっから入ってきて……都市伝説だしそういうのは関係ないか。ただいま」

ピアスだらけの不健康そうな青年……白玖は自分を出迎えてくれたボロボロの学生服の少年の頭を軽く撫でてやった。側から見れば何事かと思うような状況だが、彼らも東境を守るボーダーメーカーと都市伝説である。
少年こと雪の日2年4組は、白玖が持ち帰ってきた小洒落た紙袋に目をつけた。

「あ、ご主人様また新しいの買ってきたんだ！見たことないブランドのだけど……この後試着するなら僕にも見せてよ！」

「ん、これ？……これは買ったんじゃなくて貰ったやつ。それに新作とかじゃなくて普通にチョコだと思う」

白玖が袋から取り出してみせたのは、リボン飾りとメッセージカードの添えられた紙箱。デパートの催事場で売られているような高級チョコレート店のロゴがこれ見よがしに刻印されている。

「なんか、よく隣に来る人に『多分試験終わったら会う機会ないと思うしバレンタインにはちょっと早いけど』とかって渡されてさ……食べる？」

白玖はチョコの箱を雪に差し出した。普段であれば彼から渡されるものは喜んで受け取る雪だったが、今回は少し躊躇っていた。

「……なんか、ご主人様から貰うのは良いけど、元々は赤の他人から押し付けられたヤツだって思うとすっごいヤだな〜……」

「どうせ僕も食べないし、でも食べ物捨てるのも微妙に抵抗感あるからあげるつもりだったんだけど……また誰か来たときにでもあげちゃおう」

「！……他の人にあげちゃうくらいなら俺が食べるっ！」

そう言って、雪はほとんど引ったくるような勢いで白玖からチョコを受け取った。が、次の瞬間自分の振る舞いが強引すぎやしなかったかと思い直した。はっとして白玖の顔を見上げると、向こうはいつも通りの顔で雪の頭を撫でていた。

「……初めてかもな、家族でもない誰かにこうやってバレンタインのプレゼント的なのあげるの」

「えっと……ダメ、だった？」

少し戸惑った様子の雪に対して、白玖は諭すように話しかける。

「ダメってことはない。バレンタインって本来はお世話になってる人に贈り物する日らしいし……雪は僕の大切な契約相手だし、バレンタインプレゼント贈るのにちょうど良い相手だろ」

大切な契約相手、と呼ばれ雪は頬を赤く染めた。