縁切りの火と恋人と ページ1
2月のこと。かれんさまは始終不機嫌であった。
本来、寒くなるこの時期は人間たちから(暖をとるために)必要とされやすく、ちやほやされるのがなにより好きな彼女にとって良い時期であるのだが、今はとかく不愉快だという様子だ。
「紋よ!近頃の人間どもときたら、一体どうなっておる!?」
ぷんすこお怒りなかれんさまは、自身の契約者である三丸紋を正座させ、けしからん昨今の事情について問いただす。紋の方はというと、顔に出してはいないが「また始まった」とこなれた様子だが。
「どうしましたか、かれんさま?」
「どうしたもなにも、どこもかしこも桃色一色で、やれ恋人の祭りだの『かっぷる』?がなんだのと……儂は色恋に燃える男女なぞ嫌いじゃ!なんとかせい!」
「恋人……ああ、バレンタインのことですね」
「ばれんたいん……?」
かれんさまは「カップルが嫌い」という性質の都市伝説であるから、バレンタインデーが近づいて恋人同士の贈り物だとかが売り出されていることにも嫌悪感を抱いているのだろう。しかし、バレンタインは恋人たちだけのものではないのだ。
紋は、かれんさまを宥めるように、なんとか彼女の機嫌を取れそうな言葉を選んでバレンタインについて説明してやることにした。
「バレンタインというのは、好きな人やお世話になっている人にお菓子や手紙を贈るお祭りなんですよ」
「お菓子を贈る……しかし、なぜあんなにも恋人どもが浮かれておるのじゃ!」
「女性から好きな男性にチョコを贈る……というのが昔ながらのバレンタインですからね。とはいえ、お世話になった人だとか、友達同士で送り合ったりする方が今は多いと思いますよ」
それを聞いたかれんさまはしばし考え込み、紋に向かって手を出した。
「あの、かれんさま?」
「お世話になった人にお菓子を贈る祭りなのじゃろ?ならば、紋も儂に何か贈るべきじゃろう」
「……そういうことではなくてですね」
「ではなんじゃ?」
「バレンタインというのは2月14日に行うと決まっているんですよ。それに、急にお菓子をよこせと言われても……」
突然のおねだりに困った様子の紋に対して、かれんさまは小さな頬を膨らませて不服を訴える。
「嫌じゃ!儂は待てんぞ!」
「……しょうがないですね」
紋は渋々戸棚を探し、以前もらって食べ忘れていた菓子をかれんさまに渡してやる。彼女はちっぽけなクッキーを一口で頬張ると、別の誰かに菓子をねだりにふらりとどこかへ行ってしまった。
ラッキーカラー
あずきいろ
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