鳩色のめざめ：３（赤） ページ18
朝のひやひやの風が、
腕まくりをしたワイシャツの中を通って、
肌を直接撫でる。
前髪が風になびいて、額と頬いっぱいに風を受ける。
東の空の眩しさに目を細めて、
ハンドルのグリップを握り直して、
試しに口を開けて息を吸ってみると、
思わぬ勢いでお腹を押されて。
咄嗟に膝を曲げて、サドルに腰を下ろした。
つめたい、でもちょっとあまい、
それこそ春真っ盛りの匂いが、口から鼻に抜ける。
「あおいー？今日サッカー部昼練あるらしーんだけど、混ざる？」
学校の駐輪場にチャリを停めながら、ゲルたんが俺に声をかける。
人差し指で鍵をかけて、のびをした。
「んー、たまにはサッカーもいいな。そーしよっかな」
「たまには、って！ついこないだまで練習混じって楽しんでたじゃん？」
「サッカーなんてボール一つあればできるし、昔から飽きるほどやってきたじゃんさ。草野球もバスケも同じ！」
バレーは町の大会に混ざったり、
野球やバスケはスポーツクラブでずっとやってた。
陸上も水泳も、場所さえあればできるし、
バレーも卓球もコートさえあればできる。
ぷんちゃんの両親が音楽の英才教育、
Aやゆたくんの両親が勉強の英才教育を施すなら、
俺の両親はどっちかと言うと、スポーツの英才教育だった気がする。
四肢が思いのまま使えるようになってから、
色んな道具で、色んな方法で、
俺はとにかくスポーツに触れてきた。
全国の学生が一度は触れるような、ポピュラーなスポーツはもちろん、
ウィンタースポーツとか、武道とか、
体操競技とかサイクリングまで。
前オーストラリアでやった、水上バイクとセーリング、楽しかったなぁ。
「じゃああおいの今の流行りは何なの？」
「巡り巡ってセパタクローと少林寺拳法とクリケットかなぁ」
「巡りすぎだろ！何だそれ想像もつかんわ！」
ゲルたんはそう言ってあははと笑う。
いやいや、楽しいからセパタクロー。太ももの筋肉痛半端ないけど。
「あとやり残したのはペアスポーツだな。競技ダンスとか。A誘おーかなー」
「またAちゃん？」
「だってほら、ゲル誘うわけにもいかんし。競技ダンスは」
「違くてさぁ、どんどんスーパーマンになっちゃうねぇ、Aちゃん！って！」
ゲルはチャリ鍵についたストラップをぐるぐる回しながら、俺の少し前を歩く。
「あおいが何でもかんでも、体動かす時はAちゃん巻き込むんだもん。既にスーパーマンだよな〜」
「そんなに巻き込んでた？」
「巻き込んでるじゃん！俺より運動神経いいんじゃないの？ってくらいだよ、もー」
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作者名：ひな | 作成日時：2019年10月18日 21時
