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堪えた涙 ページ17

Aはお母さんが好きだった。
Aはお母さんと一緒にいたいと思っていた。


だからこそ、

会わせたら駄目だ。


「あの人は、『お母さん』なんかじゃない」


あの人がAを残して、
家を出ていった日のことを、よく覚えている。

俺がAを見つけた時、

Aはつめたい床に寝転がっていた。
寒い秋だった。
駆け寄ると、目を閉じたまま泣いていた。

お母さん、って、ずっと呼び続けていた。
Aが同級生にいじめられて、髪の毛を短く切られたのも、その頃だった。

いつもの公園に、
ばらばらに切り揃えられた髪の毛で、
俺のところにAが来た日、


俺はAの手を取って駆け出した。


Aを苦しめる奴も、傷つける奴も、
そんなAを憐れんでも、手を差し伸べようともしない奴らが、

いっぱいいるこの街から、逃げ出そうとして。

誰にも見られない場所に行こう。
誰にも非難されない居場所を作ろう。

そう強く願いながら、
Aのためなら、俺は何だってやった。


家族の愛に恵まれなかったAにも、
人並みの、それ以上の幸せを味わって欲しくて。


周りに溶け込むために必死になった。
それはAも、俺も同じだ。
こんな逆境で、Aがどこにでもいる一人の男の子として、自然に生きていくために。

何の為に頑張ってきたと思ってるんだ。
Aのためだ。
お母さんのためじゃない。
お母さんに、全部台無しにされちゃたまらない。

お母さんが、もし今、
Aと会いたがっていたとしても。


そう思いを巡らせるうちに、目頭が熱くなって、
俺はとみたんから目線をそらした。
とみたんはずっと黙っていた。


「…ねぇ、Aは…もう、お母さんの居場所に勘づいてるの?」

「…うん。この街の近くにおるってことは」

施設からの手紙を今持ってるのは、Aやし。

「それでも、隠すの?Aに嘘つくの?」


俺は頷いた。

とみたんは唇を噛んで、
そっか、って小さく言ってから、俯いた。
その目は潤んでいた。


とみたんみたいに、Aのことを心配して、
ちゃんと俺に相談してくれるような人が、
そばにいることは、本当に幸運だと思う。

なんかごめんなぁ、とみたん。
そんな気持ちに駆られたけど。


部屋に戻らなきゃ。

俺はとみたんと一緒にバルコニーから出て、
それぞれの部屋に帰った。


Aは俺を出迎えた。
机に突っ伏した、寝顔で。

その頭を少しだけ撫でた時に、
さっき堪えた涙が一粒、ぽろって溢れた。

後悔しない→←会わせられる



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cosmos(プロフ) - 中等部組のところ、もしかしてBlessingの歌詞ですか?笑 いつも楽しく読んでます。更新お疲れ様です!! (2018年11月3日 21時) (レス) id: 8837544c77 (このIDを非表示/違反報告)
ちあき(プロフ) - 続編待ってました〜〜!!!更新楽しみにしてます♪ (2018年10月28日 10時) (レス) id: cf9cb2a359 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひな | 作成日時:2018年10月28日 5時

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