会わせられる ページ16
*
文化祭から数日過ぎて、
夜になってバイトから帰ったある日、
俺のことをとみたんが呼び止めた。
「のっくん、あのさ、話があって」
寮の玄関に入った途端、
待ち構えていたかのようにとみたんが俺の手を引いて、
二階のバルコニーに連れて行った。
「何?ついに課題終わったん?」
「そんなことじゃなくて!…あのさ、本当かわかんないんだけど」
「ん?」
「夏に行った海の家がある街に、
芦井さんって人がいるらしい」
晩夏の少し涼しい風が、頬を撫でる。
とみたんは柄にもなく真剣な顔をしていた。
「俺の友達のばーちゃんちがあの街にあって……最近越してきた、芦井さんって人の話をするって言うの。芦井ってそんなにない苗字だし、あの中等部の芦井と同じ芦井?って…」
「…」
「若い女の人だよ。ね、この人って…」
俺が何も言わないうちに、とみたんは話を進める。
「お母さん、だよね…?Aの」
Aが夏にあの街で、
「自分のお母さん」の後ろ姿を見つけて、必死に追いかけようとしたことを、
とみたんは知らない。
「…ねえ、これって、Aに言うべきなの?俺、わかんなくなっちゃって」
俺は首を横に振った。
とみたんは少しの間、黙った。
「……Aって、お母さんのことを探してるんでしょ…?」
「…」
「知らないふりを、するってこと?」
とみたんは眉を吊り下げて、俺の目を見てる。
「…とみたんのお姉ちゃんって、萩窪に住んでてんやんか?」
「…うん」
「あそこには、Aの行ってた施設がある。
最近その近辺に、Aのお母さんの姿があるらしいねん」
「…」
寮に手紙が来てた。
施設の院長からだった。
Aのお母さんについて、書いてあった。
「……もし、Aに、『芦井っていう若い女の人について、聞いてないか』って聞かれたら、知らないって言って欲しい」
「え…?どうして…」
「Aとお母さんが再会して何になる?」
海の家の近くに、今Aのお母さんが住んでいるのは知っている。
海の家のおばさんがそう言っていたから。
でも、おばさんには、Aには知らないと言うように言ってある。
尋ねられたら、違う人だと言って欲しい、って。
「とみたんには言ったやろ。あの人は…Aのお母さんは、Aを捨ててんで?言葉でもその手でも、Aを何度も傷つけた。Aがいじめられていても、家に入れずに、放置した人。
捨てたも同然やんな。
そんな人に、Aを会わせられる?」
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cosmos(プロフ) - 中等部組のところ、もしかしてBlessingの歌詞ですか?笑 いつも楽しく読んでます。更新お疲れ様です!! (2018年11月3日 21時) (レス) id: 8837544c77 (このIDを非表示/違反報告)
ちあき(プロフ) - 続編待ってました〜〜!!!更新楽しみにしてます♪ (2018年10月28日 10時) (レス) id: cf9cb2a359 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひな | 作成日時:2018年10月28日 5時