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ウランの里の渓谷は、
何より深く、沈むは底なしの闇。
古くから、多くの強者が身を落とし、
悪魔の羽と瞳を持って、この地に再び降り立った。
目の前は、その底なしの闇。
あと一歩踏み出せば、
私もこの闇と一緒になる、
はずだった。
あおいの声が止んで、
私の腕が強く後ろに引かれるまで、すぐだった。
「Aちゃん」
何度も何度も聞いて、
名前を呼ばれるのが、大好きだった声。
腕を掴む手のひらの温度が、心地いい。
近くに来ると香る、優しい匂い。
振り返らずにはいられない、不思議な人だった。
色素の薄い、さらさらの髪が風になびき、
大きな瞳を少し細めて、
薄紫色のローブが、全身を包んでいる。
腕から指まで、包帯を巻かれている。
「……どうして、いるの…」
「じっとしてられるワケ、ないやろ」
「……」
「危ないで、ここ。帰ろう、Aちゃん」
微笑んだ、その表情。
塔の方から物音が聞こえて、
あおい、
少し遅れてげるたん、ぷんちゃんの、
顔が見えた。
三人とも酷い手負いで、
その後に、屋根を飛び移ってきた二番くんも。
とみたんは、白服さんの肩を支えて、
足を引きずりながら、塔の影から姿を現した。
「のっくん」
掠れた声で、
目の前の人の、名前を呼んだ。
あおいたちを取り囲む敵を一掃して、
こんなに綺麗な姿のまま、
ここまで来たの…？
……嘘…
「…私は、もう帰らないよ…」
授業の時間も訓練の時間も、
殆どをベットの上で過ごした人とは、思えない。
「私を、連れ戻してどうするの…？」
手を離してほしいのに、
振り払うことが出来ない。
「のっくんは元気になって、あおいたちは重荷から解き放たれて……それで、良いじゃない」
「ううん」
のっくんは首を横に振る。
微笑んだまま。
「俺、ベットの上で過ごしてた時間のうち、
辛い時なんて、一秒も無かったんやで」
「………」
「朝になったら、いつもとみたんが窓を開けに来てくれて、
みんなが授業の時間は、教科書とか本とか読んでてんけど、
夕方になったら、あおいくんが迎えに来てくれて、
庭に出て、
ぷんちゃんがドジやってるとこ見て笑って、
野崎先生とか、にーちゃん先生とか巻き込んでさ、
げるたんとあおいくんが張り合ってたり、
Aちゃんが魔法失敗して、
白服さんに水浴びさせたりとかして、
それを見て二番くんが笑って、
白服さんが笑ったら、
みんなも笑って」
脳裏に、たくさんの記憶が浮かぶ。
「楽しくて、楽しくて、仕方なかったんやで、俺。
そこに、Aちゃんと、みんながいるだけで」
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ちあき(プロフ) - 完結おめでとうございます！最後までドキドキしながら読ませていただきました…！番外編も楽しみにしています♪ (2018年10月31日 18時) (
レス) id: 42c5eb145f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ひな | 作成日時：2018年9月9日 14時
