ひかる (ページ39)

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私の言うこと◆12.11.05 ページ39

ダンスレッスンが終わると、父さんが車で迎えに来てくれて、
halyosyさんとお話したらしい、母さんと人１を、カフェまで迎えに行った。

冬は日が落ちるのが早い。
光が溢れる街を、いつも通り、
四人を乗せて車は走る。

車に乗りこんだ後の、隣の人１は、
いつにも増して黙り込んだまま。
母さんにわけを聞いて、驚いた。

「すごい…でも、俺もその案、いいと思う！」

何より人１はいつも一緒だから、俺自身いつでもレッスン受けられるし、
いろんな人の撮影に同行するから、その時に発声だけでも…とか。
ハルヨシさんも忙しいしね。

「…でも…私、自信ないよ」
人１は眉を吊り下げる。
「音域も狭くなったし、声量も落ちたし…一曲覚えてみんなに教える、なんてできるかな…」

俺は母さんを見る。
「……元々、メールではそういう話になってて。判断はA自身に委ねさせてください、ってお願いしたの」
「…それでAは何て、返事したの？」
「とりあえず、曲が出来るまで、保留。ね、A…」

母さんは、歌のことについて、
人１に強く言えない。

「……でも、私が発案者だから…」
人１は俯いている。
「やるつもりではいる…みんなが私でいいって思うなら…」

「できるの…？」
俺は人１を見た。
「歌えるの？」

上手に歌えるのか、って意味じゃなくて。
一人きりのレコーディング室じゃない、
みんながいる前で、お手本になって、
歌えるの？人１…。

人１は中学生になるちょっと前から、
ずっとそれを避けてた。

人前で歌うことを。

「…わかんない」
人１が俺を見た。

「母さん、みんないるときはハルヨシさんに任せていいでしょ？人１は個人レッスンの時だけで…」
「うん、それくらい配慮してくれると思うよ」
「優しい人だから…ハルヨシさん」
人１がそう言って、窓の外に視線を戻す。

目の前の赤信号で、車が止まる。
窓の外を、飲み会帰りのサラリーマンが歩く。

「…とりあえず、曲が出来上がったら、ハルヨシさんのレッスン受けに行く。みんな歌の経験ない人ばっかりだし、腹式呼吸ぐらいなら教えられるかも」
「…うん、そうだね」
「……私の言うこと、聞いてくれるかな？」
「いつも俺に教えるみたいにやればいいんだよ！」
「あんなに偉そうにできないよ」

人１がそう言うと、前の席の母さんと父さんが
あはは、って笑った。
「心配しなくても大丈夫だよ、A」