もしも魔法使いになれたら

48でしょう ページ48

そして、検察が事件の概要を説明する。

「被害者はシグの準上流階級今川家の跡継ぎです。付属大学の助教として、大学に一週間のうち何度か通っていたのを、数週間前からしばらく姿が見えなくなり……大学側からすれば、彼は研究熱心で地方出張が多いため、音信不通になったことはこれが初めてじゃなかったとのことです」
スクリーンに映し出されたのは、
叔父さんと見られる、所々白骨化した遺体の写真。

「我々が今川碧海を容疑者として起訴した理由は、大きくわけて二つになります。
一つ、彼には考えられる動機が有り、当日のアリバイが無いこと。二つ、遺体の切り取られた耳の、発見当時の状態についてです」

検察は証人台の周りを歩きながら、裁判官に訴えるように話す。

「我々が考える動機についてはお手元の資料の通りです。シグ一帯、ウランの内部でもある程度知れ渡っている話ですが……三年前の三塚港事件は、当時被害者に被疑者として多くの疑念が集まりながらも、証拠不十分で裁判の決着は未だついていません。仇討ちと言うのでしょうか、被告の彼は優秀ですが若いですし、その可能性は十分考えられます」
「異議あり。それは被害者側の勝手な想像です」
「検察、続けてください」

一度立ち上がった俺の隣の先生も、また、座り直してしまった。

「では次に、被害者死亡時刻の頃についてと、その当時の被告のアリバイについて説明したいと思います」
スクリーンには、また別の資料が映し出された。
「死体の腐敗の始まった時期は、被害者が行方不明になった時期と照らし合わせると、あまりにも早すぎるという調査結果が出ています。よって、被疑者は被害者殺害当時、『カミル油』の注射を行ったと考えられます」

スクリーンにカミル油の説明が映し出されている。
カミル油は、生物の生命活動を無理矢理に促進させ、死体に注射することで、死後硬直と腐敗、白骨化を早めることができる薬。
「被疑者は、遺体の白骨化を急ぎ、何かしら遺体に残る証拠を消したかったのだと思われます」
そして次に映し出されたのは、モミー油の説明。

「そして、切り取られた耳は発見当時、ほぼ殺害直後、死後硬直も始まらない時刻の状態でした。これは本体と逆に、『モミー油』が使用されたと考えられます。これも耳の腐敗を防ぐため、何らかの目的があった行動だと考えられます」
猛毒薬のモミー油はカミル油の反対、身体の機能を停止させ、一時的にではあるが、腐敗、白骨化を遅らせる。
でも俺にとってこの薬は、直接触ることはおろか、近づくだけで拒否反応を発する毒薬だ。

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