1まただめ ページ1
*
「……いくよ」
「頑張れ」
ごくり、唾を飲む音が、自分の体の中で響く。
指先と、心臓だけに、意識を集中。
机の上の小皿の上の氷を、じっと見据え、
その氷をまっすぐ指した杖を、
「インセンディオ!」
小さく円を空中に描き、前に突く。
その次の瞬間、
「…」
「…」
何も、起こらない。
机の側で、水がなみなみ入った小さなバケツを抱えていた、あおいは、
ああーっと声を出して肩を落とした。
「まただめかぁ。俺が初めて試した時のサイズと溶け具合なら、いけると思ったんだけどなぁー」
「やっぱり、そういう問題じゃなかったんだよ…。だいたい同じような状況で、私も最初やったのに」
学校の広場で、私たちが立ってる芝生の周りを、たくさんの人が行き来する。
みんな、このアルカディア六年制魔法学校の生徒。
おいしょ!ってあおいは、芝生にバケツを下ろした。
「やっぱ発火は難易度高いかもなぁ?…発音もちょっと難しいし…指先に集中しなきゃいけないし…ね?」
あおいは両手をぶらぶらさせながら、私のほうに歩いてくる。
「いいんだよ…はっきり言いなよ」
「…」
私は膝に手をつき、真下の地面を向いて、
「私には才能が無いんだよー…」
叫ぼうとしたけど、もはやそんな気力もなくて、
その場に腰を下ろした。
「…あぁA!そう気落ちしないで?」
「気落ちするよぉ。発音なんて浮遊術に比べれば超簡単な初期魔法でしょ?…あー、どうしよう…」
私の顔を覗き込むあおいとは目を合わせないまま、ごろんと芝生に仰向けになった。
「進級できるのかな…私…」
「できるよ!きっとできる!A、筆記試験なら、記憶得意だから頑張ってんじゃん?」
「ホワイトローブが貰えるレベルだったら、少しは気が楽だったかもしれないけどね」
青空で埋まった視界に、横からあおいの顔が入ってくる。
「ほら、もういっぺんやってみようよ。できるよ」
追試に追試を重ねても出来なかったことを、課題点も何も分からないまま、努力を重ねたって…。
いつもに増してネガティブな私を見て、頑張って励まそうとするあおい。
「次は呼び寄せ呪文なんてどうだろ?鳥の呪文とかさ、発音簡単だし」
「うんー…」
「Aにもできることがきっとあるよ!発音も集中力も申し分ないし…伸び代があるんだよ」
「優秀なあおいさんにそう言ってもらえると、お世辞でも嬉しいよ」
お世辞じゃないって、もぉ。
あおいは苦笑いをして、一向に表情が晴れない私の肩を叩いた。
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ひな(プロフ) - 名無しさん» ありがとうございます!コメント励みになります(;;)がんばります!! (2018年3月3日 18時) (レス) id: 81ab03c3d0 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - ひなさんの小説の世界観が大好きでいつも楽しませてもらってます!!更新大変だとは思いますが、がんばってください! (2018年3月3日 14時) (レス) id: a81d6c10a8 (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 有栖夢子さん» ありがとうございます!頑張りますね(;;) (2018年2月28日 16時) (レス) id: 81ab03c3d0 (このIDを非表示/違反報告)
有栖夢子(プロフ) - いつも楽しんで読ませてもらってます!楽しみにしているので、これからも頑張ってください! (2018年2月27日 22時) (レス) id: 75b30202ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひな | 作成日時:2018年2月15日 21時