『ねえ、京本さん』

５ Taiga ページ6

「もしもし」




電話に出ると、受話器の向こうから深い深いため息が聞こえる

ため息つきたいのはこっちだよと心の中で突っ込む




『随分出るのが遅かったな』


「食堂で昼食とってて、電話来たから出てきた」


『そうか、それは邪魔したな。すまん』


「いいよ。ちょうど食べ終わった所だし」




それで、どうしたの？と電話越しに父に問いかけると

いつもズバズバものを言う父が珍しくいいあぐねているのを感じた

どうしたのだろうか、と心配になり、大丈夫？と問いかける

すると父は小さな声で「..あぁ」と返事をし、意を決したように俺の名を呼ぶ




『大我』


「うん？」


『お前、今交際している女性はいるか？』


「は？何、突然」


『いいから、いるかいないかだけ教えろ。早急に』


「なんなんだよ..いないよ。仕事に集中してたいし、恋愛に時間取られたくない」


『..そうか』


「で、本当にどうしたの？突然」


『大我、見合いだ』




....は？


俺の思考回路が一瞬止まる

見合い..見合い？え、見合いって...あの見合い？

いや、どの見合いだよ

など1人心の中でノリツッコミをする

何気に虚しいな、これ




『そういう訳だから、今日19時半にプリンスホテル集合な』


「いやいやいやちょっと待って！勝手に話進めないでよ！

え、見合い？見合いってあの独身同士の男女がするあの見合い？

俺が！？」


『お前以外に俺の息子はいないだろ』




何言ってんだ、と少し呆れた声をする父

いや、俺の反応は至って普通な気がする

突然父から電話が来て

突然お見合いするって言われて

しかも今夜！？

なんなんだようちの親父は




『安心しろ、向こうは俺が心から信頼している友人の娘だ

ちゃんと大学も出て、バリバリ働いているそうだ』


「えっと..」


『彼氏は今までも今もいないそうだ』


「あの..」


『写真見せてもらったけど、なかなか可愛い子だったぞ』


「と、父さん....！」


『ちなみにもしバックレたりしたらどうなるか....









俺の息子なら、分かるよな？』



















「..ハイ、今日の19時半にプリンスホテルですね。了解です

仕事終わったら速攻で向かいます！」


『さすが俺の息子だ。話が早い。じゃ、また夜にな』




ブツッという音の後に、耳元でプーップーッと電子音が虚しくなる

ざわめきと行き交う多くの人の中にまぎれながら

俺は食堂のショーケースの角にもたれかかり、項垂れながらため息をついた

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