【教場】初任科第200期短期課程

比嘉の倒懸 2 ページ28

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『ほんとに，怪我してるわけじゃないよね？
何か，悩みごとあるなら…私で良ければ聞くよ？』




いつものように，寮までの帰り道を道着の状態の二人が歩く。
比嘉の様子がおかしくなったのは昨日今日の話ではない。


ここ１，２週間で少しずつおかしくなっていったのだ。



教練では動きに問題がある様子はなかったため，“怪我をしている訳ではない”ということはAも気づいていた。


きっと，なにか“問題”を抱えてるんだと漠然とだが，小さな確信を持っていた。




自分と杣と，比嘉。
総代争いをしている生徒は，嫌でも気になるもの。


特に，女子であるAは，杣にも比嘉にも気を配っており，最近の比嘉の理由のわからない不調には疑問を抱いていた。




これまでは周囲が羨むほどに何につけても完璧にこなしていた総代候補が，ここ最近少しずつ不調を来しているということは，Aが気づいただけでなく，第三教場の女子の間でも話題になっていた。



最も，比嘉とも仲の良い忍野によると，「付き合っている彼女とのことで悩んでいる」ということだったが。






「こんなこと，嘘って思われるのかも知れないけどさ…。」






決心したように比嘉がAの方を向き，口を開けたところで，二人に声をかけた者がいた。

「比嘉君」。そう甘い声で比嘉を呼んだのは田澤だった。




まるで，自分ははなからそこに居なかったかのように比嘉のみに声をかけ，取ってつけたように「大鷹さんもいたのね，また風間教官と稽古してたの？」と掛けられた言葉。



張り付くような愛想笑いにどこか恐ろしさを感じたAは，「はい」としか言葉を紡ぐことができなかった。





「なあに，二人で。楽しい話？」



「いえ，何でもありません。」





じゃあ，お疲れ様。と言うと，男子寮のほうへくるりと踵を返す比嘉。


Aも「失礼します」と頭を下げると，女子寮の方へ早足で去って行った。
 

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