ねじれの位置が42つ ページ44
どうしてこうなったのだろうか。昼休みに理科室に集まって話し合う彼らの中に1人何も喋らず飴を舐めている。思わず溜め息が漏れた。
「馬鹿なの？」
漏れ出てしまった言葉は取り消せない。一斉に目線が此方に向いた。つい阿呆らしい討論に感化されて声を出してしまった。
「Aは何か良い案があるか？」
静まり返った空気の中で悠馬が優しくそう言った。あぁ、やってしまったな。参加してる事もバレない様にやろうと思ってたのに。注目の的だ。処刑台に吊し上げられた気分。
しかし、人の事を貶しておいて回答を述べないのも気が引ける。私はもう一度溜め息を漏らして立ち上がった。
「そもそもその奥田が作った強力下剤をどうやって入れんの？速水と千葉が撃つってどっから？
大体、潮田と茅野がそのカフェに居た時点で難癖付けて来る様な輩なんじゃないのそいつ等は」
やっぱり、私は此処に居るべきでは無かった。今朝悠馬に誘われた時点で断っておくべきだった。冷たい空気を醸し出す彼らを見て胸が痛む。
「じゃあ渚とカ茅野を変装させるってのは？」
「確か目の前にアパートがあった筈、ビッチ先生直伝の交渉術で空いてる部屋借りてみよーよ！」
確かに、無謀さは未だ拭えないがそれなら新しい道は開けそうだ。私は空気が前向きな方向に変わったのを感じて椅子に座る。
「で、問題なのは此処からだ。どうしたら彼奴らの目線をテーブルの上から逸らすか」
悠馬が教壇に立ったまま人差し指を立てる。なるほど、どうやって強力下剤を仕込んでどうやって相手を恥ずかしい目に合わせるかは決まっていても、見られてしまっては意味が無い。異物混入が発覚したら店に飲み物を交換させる筈だ。
「小野寺さん、何か良い案無い？」
考え過ぎて凝り固まってしまった脳味噌を必死に動かしても意味が無い。潮田渚はそう判断したのか新たな意見を求めるべく私に振った。私も暫く考えてから実践する。
「あれ、何？」
そう言って指を差したのは窓の外。この場に居る全員が外の景色に数秒程注目した。勿論、外の景色に何ら変わり無い。
「人が意識を別の場所にやるなんてこんな小さな切っ掛けで十分。
でも、今全員がそっちを振り向いたのは''私の事を知っている''から」
「…つまり？」
「赤の他人が大きな音を出したってチラ見で終わる。大事なのは、音を立てる前に自分の事を相手に印象付ける事」
なるほど、そんな声がチラホラ聞こえた。各々の顔色が変わる。良かった、伝わった様だ。
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作者名：詩季 | 作成日時：2019年1月6日 19時
