【暗殺教室】ねじれの位置【磯貝悠馬】 (ページ32)

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ねじれの位置が30つページ32

磯貝悠馬side

開きっぱなしの扉から何かが飛んで来た。特に何かを考える事はせずにAを抱えて転がる。本人は何が起きたか分からない、という顔をしているけど関係無い。Aの安全が第1だ。

「大丈夫か？怪我は？」

肩を叩いて尋ねてみるとよろよろと立ち上がって頷く。あ、これは大丈夫じゃないな。

「飛んで来たそれって……ナイフ？」

Aはそう呟いた。瞳の中には不安が揺らいでいるから、俺がしっかりしないといけない、と改めて思った。マットの上に転がるそれを目視して声を上げる。

「なんでこんな所に…」

さっきまで普通の日常だった。昼飯を食べて、体育をして。次は小テストだ、なんて考えながら道具を片付けていたら突然凶器を向けられる。意味不明な世界に動揺する。

「あ、おい！」

フラフラと歩き出したAを口で止めるが聞いちゃいない。仕方無く、着いて行くと換気の為に付いてある窓に手を掛けた。此奴、誰がこんな事したのか確かめる気だ。俺もAに近付いて様子を伺った、その時。

「……A？」

急に震え出した。明らかに可笑しい、まるで相手がどんなに怖い者か知っているかの様に。俺は落ち着かせる為に背中を摩ってみるがあまり効果は無い。Aは必死になって手の震えを止めようとしているが恐怖の方が勝っているのだろう、震えは止まらない。息も絶え絶えになって来て、そろそろ本気でやばそうだ。必死で俺に出来る事を考えて、ぎゅっと抱き締める。

「大丈夫、俺が居るから」

俺なんかがAの力になるかは分かるけど、独りでは無いという事を分かって欲しい。暫くしてから自分がどんな状況に置かれてるのか理解したらしく背中に腕が回って来る。

トクトクトク、荒い心臓音が此方にまで伝わって来た。

「……ごめんなさい」

密着したまま、Aの呟き声がき声が聞こえる。謝る事無いのに。Aは何も悪く無いのに。何が、なんて惚けたフリをして聞いてみるけど何も返してくれない。

何も聞かないの、なんて苦しそうな声で聞いて来るから俺は修学旅行の時と同じ言葉を返した。嘘じゃない。利用でもなんでも良いからAの傍に居たい。力になりたい。

「Aが考えてる程俺は嫌な風に思ってないよ。ていうか、全然嫌じゃない。
ちょっとずつコミュニケーション取ってくれて嬉しいよ。頼ってくれてるのかなぁって思う」

だって、君にこの温度の名前を知って欲しいから。