ねじれの位置が20つ ページ22
あの怪物は一体何をしたのだろうか。
家に帰ると翼さんから大事な話と命じて修学旅行の話をされた。彼に行って来なさいと言われたら逆らえる訳も無く。私はあのクラスの輩と一緒に寝ないといけないのだ。
「ねぇ〜本トに磯貝と一緒じゃなくて良かったの？」
「話もしない奴となんで一緒になんなきゃいけないの」
正論を突き付けるとカルマはつまらなそうに新幹線の反対側へと行ってしまった。私は溜め息を付いて掠れる景色を眺める。
「隣、良いか？」
次に声を掛けて来た奴は磯貝悠馬。というか、私にちょっかいを掛ける奴なんて此奴しか居ない。肯定も否定もしない私を無視して隣に座る彼は独り言を始めた。
「楽しみだな、京都。俺達は嵐山とか行くんだ。
Aの班は何処に行くんだ？」
1人で話す彼の瞳に私はどうやって映っているのだろうか。バイブしたスマホを見つめると磯貝悠馬の保護者からまたメッセージが届いていた。
最近、彼からのメッセージも多い。
「京都の和菓子とか美味そうだよな、何食べる？」
再度揺れたスマホを裏返しにして溜め息を吐く。何奴も此奴も、結局独りでは生きていけないのだ。
「抹茶ソフト」
呟いた音は、新幹線の爆音に上手く溶け込んでしまっただろう。でも彼の耳には届いてしまったらしい。
「そっか！美味そうだな」
爽やかに笑う彼の表情に偽りが無くて此方が苦しくなる。
「中にバームクーヘン入ってる奴とか、黒蜜掛かってる奴とか」
インスタで見付けた美味しそうだった物を並べると磯貝悠馬は嬉しそうに耳を傾ける。
「へぇ、色々あるんだな」
コメントを返す彼はいつになく楽しそうだった。でも、と反語を使って話を区切る。
「Aは胃が弱いんだから食べ過ぎでお腹壊すなよ？」
揶揄いの瞳をした彼の表情を見た事がある奴は本当に少ないと思う。普段から温厚で優しくて、たよれる彼はいつも人が嫌がる様な事は言わない。言うとしても、信頼してる人達だけだ。
「うっせ」
私は彼にだけ聞こえる様に毒を吐いた。
もう2度と、私に近付かない様に。
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作者名：詩季 | 作成日時：2019年1月6日 19時
