ねじれの位置が19つ ページ21
「小野寺ちゃんは班決まった？」
数学の授業中。チョークが擦れる音を聞きながら黒板を写していると隣からそんな声が聞こえた。
「班？なんの」
「修学旅行だよ、まさか行かないの？」
いつも通り呑気なカルマの質問に対して私は言葉を返さない。いちご煮オレを飲み込む音が教室内に響く。
「え、本気？」
ストローから口を離したカルマが放った言葉はそんな意外な物だった。寧ろ、どうして私が修学旅行に行くと思ったのだろうか。
「えー勿体無い、友達居なくて寂しいなら俺と同じ班でも良いじゃん」
「行かない」
「えーじゃあいっそ寺坂の班入って扱かれて来なよ」
「…馬鹿にしてる？」
寺坂竜馬に扱かれる程ヤワじゃないし。
「今の保護者に無駄な金を出させる訳には行かないでしょ」
翼さんが同年代の男性よりお金があるのは知ってる。でも、だからと言ってそれに甘えて良い訳じゃ無い。
「ふーん、成程ねぇ」
カルマはそれから何も言わなかった。しかし、こんな小さな声でも耳に入ってしまう超生物がこの教室には居るのだ。
「そんな事言わずに行きましょうよ小野寺さん！折角皆で旅行が行けるんですよ！！楽しみましょうよ！」
伸びて来た触手を払う。鞄の中から3DSとお菓子のポーチを取り出して立ち上がった。
「サボる」
「りょー」
「え、あっ…ちょ、小野寺さん！？
サボってはいけませんよ！！」
δ
昼休みが始まる音がしてから暫く、校舎の裏で寝転びながらゲームをしていると急に視界が暗くなる。
「授業はちゃんと受けなきゃ駄目だろ？」
独りで居たがる私に構う人物なんて1人しかいない。彼は私のお弁当袋と自分のを持って来ていた。
「まだ班が決まってないならウチに来るか？」
無断で隣に座り、お弁当を広げる彼の方には目も向けず自分のクエストを進めて行く。
「殺せんせーもお金の事は心配しなくて良いって、何があったかは知らないけど行事ごとには参加しとくべきだよ」
遂には私のお弁当まで広げ始めた。ほら、という言葉はきっと私に食べろと命じているのだろう。仕方無く体を起こして手を合わせる。
「そういう所、俺は好きだな」
彼が指を差したのは私の合わさった手。食べる時に命に感謝するのは当然だろう。磯貝悠馬も自分の弁当を前に手を合わせて箸を取る。
「まぁ、Aがどうしても嫌なら仕方無いけどさ、ちょっとは考えとけ？」
彼の優しさが一々痛い。
胸に刺さって取れないこの小さな針は一体誰が癒してくれるのだろうか。
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作者名：詩季 | 作成日時：2019年1月6日 19時
