Chapter ページ2
突然やってきた黒スーツの男は、どこか緊張しているように表情筋を強ばらせて、真っ直ぐと私を見ていた。
全く見知らぬ男性を一人暮らしの部屋に上げるなど普通じゃ考えられないがもしもの時の対処策が私にはあった。
暫くの沈黙。
それを破ったのは紛れもなく目の前に座る男性だった。
「突然申し訳ありません。私、政府の者です」
「はて、お役人さんがどうして私の所へ?」
ゆっくりと疑問を口にすると共に首を傾げる。さら、と手入れのしていない傷んだ髪が揺れた。
私の質問にさらに緊張を増幅させてしまったのだろうか。お役人の視線が私からずれ、下にさがる。
「――審神者、というものをご存知でしょうか」
その言葉を、私は少しだけ記憶していた。
風の噂で聞いただけの存在だが、お役人の口から現れるとなると審神者という存在は、実在するのだろう。
肯定するように頷く。
下がりきった視界の隅に私の髪が揺れるのが見えたのか、安堵したように息を吐くお役人。
「政府は久我様の霊力が基準を満たしている事を確認致しました。我々の基準は高く、満たす者は極わずかです。」
お役人が話を切り出した時からなんとなぁく察していたことは、間違いではなかった。
ああ、そうかい。そういうことかい。
「そうですねえ、構いませんよ、私は。」
私の言葉に勢いよく顔を上げるお役人。今まで弱気だったその瞳の中は輝いており、今にも大声で礼をしそうだ。
それを止めるように、言葉を続ける。
「しかし、そうですねえ。残念ながら私は、ただの善意で動ける様な人間じゃあない。一つ、たった一つだけ、条件を付けましょう」
「条件、ですか」
「ええ。一つだけ。たった一つの条件を飲むだけで、政府は望んだ人間を手に入れることが出来る。」
お役人に私の言葉に考える素振りを見せた後、「上に掛け合います」と答えた。その言葉に意味などないことなんて、私は知っている。
「そして、久我様。その条件とはいったい?」
「なあに、簡単な事ですよ。」
外の音が一切聞こえない防音の効いた空間で、お役人が唾を飲む音が響く。
私は普段滅多に使わない表情筋を動かして、口角だけで笑って見せた。
「――私に関わるな」
さて、いかがですか?お役人の――三多さん?
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伽倻(プロフ) - メンタル弱い系人間さん» コメントありがとうございます。図々しくなんてありませんよ!面白いと言って頂けてとても嬉しいです。応援ありがとうございます。頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。 (2018年1月28日 16時) (レス) id: fb5b5e8505 (このIDを非表示/違反報告)
メンタル弱い系人間 - 初めまして!!図々しいかもですがこのお話とても面白いです!!応援しています!!伽倻さんの作品の良さがもっと伝わって欲しいです!! (2018年1月28日 15時) (レス) id: ba1024f461 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:伽倻 | 作成日時:2018年1月24日 23時