日陰少女の日向坂記録 (ページ41)

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過去　　崩壊ページ41

その日からすべてが狂い始めた。

わたしを庇って通り魔に刺された母さんはそのまま救急搬送。

病院に運ばれ、父と叔母が駆け付け、気の遠くなるほどの長い長い手術の末……

むなしく、あっさりと、この世を去った。

父さんは少し変わった。

口数も減り、疲れたような様子だった。

それでも、懸命に、遺されたわたし達のために頑張り続けたけれど……

数日して、父は壊れた。

理由なんて単純。

母に残された一年を、奪われたこと。奪った張本人がなにかの偉い職業に就いていたのか、精神障害があったのか忘れたけど、罪に問われなかったこと。そして、友人知人、果ては親戚までもが、母の遺した遺産目当てで、悲しみが癒える間もなく次から次へとやってくること。

最愛の人との短い時間すらも奪われ、奪ったそいつはのうのうと生き続け、友人だと思っていた人々は金目当てで近づいてくる。

壊れない方がおかしいと思う。むしろ父は正常なのだ。

父さんは、優しい人だった。警察という職業も相まって、正義感溢れる、立派な父親だった。くしゃっと笑う笑顔が、頭を撫でて抱き上げてくれる暖かい手が、大きな背中が、まるで太陽みたいで、大好きだった。

母さんも太陽みたいだった。ふわりと、暖かく笑う人で、優しくて、太陽みたいな両親から生まれたゆきも、ふにゃりと笑って暖かい気持ちにさせてくれる、小さな太陽だった。

でも、父は壊れた。壊れてしまった。

精神的にも肉体的にも疲弊した父は、酒に手を出した。

そうなってしまえば、もうあっという間だった。

酒に溺れた父は、わたしに暴力を振るうようになった。

元はと言えば、酒におぼれ涙を流す父を見かねて、『父さん、もうやめよ？ね？』と制止したわたしが悪いのだけれど。

制止したわたしに、父は「うるせぇ！お前に何がわかるんだよ！！」と怒鳴りながら、殴った。

そうして酔いが醒めた後、ハッとして、涙を流しながらわたしに謝るのだ。

きっとまだ、父の優しい心がまだ辛うじて残っていたんだと思う。

わたしを抱きしめ、泣きながら「ごめん……ごめん……」と謝る疲弊しきった父さんに、わたしはなにも言えなかった。

『だい、じょうぶ、だよ……わたしは、大丈夫だから……』

けれど、それが癖になったのか、父さんは酒を飲んではわたしを殴るようになり、さらにどんどんエスカレートしていった。