過去 強くなれば ページ37
「ふ、ふぇっ………」
『ゆ、ゆき……っ!?』
その日、母さんは病院だ。
家にはわたしとゆきしかいない。
『ゆ、ゆき、どうしたの?』
「おなかすいたぁ……っ」
『あ……もう、お昼の時間か』
なぜだかわたしは昔から、あまりお腹が空かない体質だった。
空いてもあまり食べない。
かなり小食……なんだと思う。
けれど、当然のことながらゆきもそうとは限らない。
『ご、ご飯か……えっと……』
冷蔵庫を開けると、材料的にはハンバーグが作れそうだったので、母と作った時のことを思い出しながら、ハンバーグを作った。
……少しへたくそだったけど。
『え、えっと……おいしい?』
「うんっ!おいしーよ!」
『そ、そっか……』
……この子は、なんてかわいいんだろう。
ふにゃっとした笑顔。小さい手。素直で純粋で、とても弱い。
頭を撫でると、ゆきは幸せそうに目を細める。
わたしが、守ってあげないといけないんだ。母と約束したし、そうしないと、この子は、ゆきは生きられない。
他の誰でもない。わたしが……。
『……わたしが、守ってあげるからね』
「……?」
『……ううん、なんでもないよ』
翌日、母さんが病院から戻ってきた。
『お帰り、母さん』
母「……ただいま、A。大丈夫だった?」
『平気だよ!ゆきにご飯も食べさせたし、洗濯も洗い物もしたし』
母「そっか。偉いね」
そうやって優しく笑って、頭を撫でてくれる母が大好きだった。
母さんに褒められたくて、笑ってほしくて、わたしは強くなることにこだわり続けた。
ゆきはわたしが守る。
わたしがもっと強くなる。
そうすることで、母さんともっとずっと一緒にいられるはずだ。
母さんの負担をわたしが減らせば。わたしが、母の手を煩わせなければ。
母さんは褒めてくれる。偉いねって、笑って頭を撫でてくれる。抱きしめてくれる。
ずっとずっと、一緒に過ごせる。
そんなあり得ない『永遠』を、わたしはずっと信じていた。
わたしが強くなれば、それが手に入るのだと。
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123 - テスト (2021年12月1日 22時) (レス) id: 3aa6a8a473 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:零 | 作成日時:2020年11月6日 18時