日陰少女の日向坂記録 (ページ34)

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——十数年前——

『ふぎゃぁああ！うぇっ、ふぎゃぁああああああ！』

一つの命が誕生した。

母「産まれた……私たちの、子供……」

父「ああ！俺たちの子供だ……っ！A……」

Aと名付けられたその少女は、両親からの愛を一身に受け取り、すくすくと、成長していった。

叔母「お姉ちゃん、産まれたって！？
……かわいい……」

母「ふふ、かわいいでしょ。私たちの大事な大事な宝ものよ」

警察官をやっていた父は多忙で、中々遊びに行くことはできなかった。

そんな中、初めて家族で訪れたのが遊園地。

母の妹である叔母が、知人からチケットを譲り受けたのだ。

Aは大変喜び、家族写真も撮った。

けれどそれは、最初で最後の遠出になってしまった——。

しばらくたってから、母は頻繁に体調を崩すようになった。

不自然に思った父が病院に連れて行くと……案の定、病気だった。

でも現段階では命にかかわるようなことはないし、日常生活に支障もきたさない。

長い付き合いになるかもしれないが、頑張って治していこう。

それが医者の言葉だった。

ただそこからは本当に何事もなく、医者の言葉通りいつも通りの毎日を送っていた。

そんな矢先。

Aにとって、なによりも大事な出来事が起きる。

母が、第二子を身ごもったのだ。

your side

『赤ちゃん……？』

母「そう、Aは、お姉ちゃんになるのよ」

お母さんからそう聞いた時は本当に驚いた。

母の中に、命が宿っている。

その事実には、まだ小さかったわたしでさえ、なにか神秘的なものを感じた。

母「この子と仲良くね、お姉ちゃん」

『うんっ！』

出産が近づくにつれ、家は慌ただしくなっていった。

両親が一番悩んでいたのは名前だ。

幼いながらにわたしも一生懸命考え、提案した。

『「ゆき」は？

「幸」と「雪」のからとって、「ゆき」

雪って、真っ白で、綺麗だし、幸せになりますよーにって思ったから！』

——雪のように真っ白な心を持つ、純粋な子に、そして幸せな子になってほしい。

その時のわたしの心情を今表すとこんな感じだ。

本が好きだったせいか、わたしは周りより精神的に少し早熟だった。

両親はわたしのその提案に目を丸くした後、「素晴らしいじゃないか」と言って、頭を撫でてくれた。

そうしてしばらくして、ゆきが産まれた。

かわいい妹。優しい両親。幸せな毎日。

——でも、幸せはそう長くは続かなかった。