日陰少女の日向坂記録 (ページ20)

今日:2 hit、昨日:4 hit、合計:58,265 hit

・ページ20

菜「ええ加減にしい！」

『っ！』

菜「さっきからうだうだと、一人で守る！？人は一人じゃ生きていけんやろ！Aは、なんでも一人でやろうとしすぎや！」

『……約束、したので。大丈夫です』

菜「大丈夫なわけないやろ！この前だってそうやって倒れてたやんか！
Aが一人で探してるうちに、ゆきちゃんが真反対の方向で苦しんでたらどうするんよ！」

『っ……』

すると、菜緒がAに向かってぱっと右手を上げる。

Aはびくっとして、手で自分を守るようにガードして、ぎゅっと目をつむった。

でも……。

——ぽん、ぽん。

菜緒は上げた手を優しくAの頭に置いて撫で始めた。

『……え？』

菜「あんな、A。
人が誰かに向かって手を伸ばすときは、傷つけるときだけじゃないんやで。
その人を助けたいとき、優しくしたいときにも、同じように手を伸ばすんや」

『っ……』

愛「……A。
私たちは、Aのこと全然知らないよ。
でもね、だからこそ、知りたいんだよ、みんな。

仲間だし……それ以前に、目の前でこんなに苦しんでる子がいたら、ほっとけないでしょ」

『……そんなことされても、わたし、お金、払えません』

菜「そんなんいるわけないやろ。
というか、同じ仕事しとるんだし、お給料もだいたい一緒やろ笑」

『……そうやって優しくされた代償に殴られるのは、いや、です』

愛「もう誰も、Aのこと傷つける人はいないよ」

『っ……！』

Aは頭を撫でていた菜緒の手を優しく振り払う。

そして、私たちに向き直って、頭を下げた。

『まなもさん、小坂さん、お願いです。

……助けて、ください……

ゆきを、一緒に探してくだ、さい……！』

少し涙の混じった声で、慣れていないんだろう、少しつっかえながらも救いを求めるA

菜「……言うのが遅いんよ」

愛「当たり前でしょ？」

今日、ゆきちゃんを探す直前の、関係のない人にとっては、ありふれた一瞬。

でもその『一瞬』は、

Aが初めて、誰かを頼った瞬間だった。