いつだって傍役でいい【鬼滅の刃】 (ページ11)

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9話　あの日の夕暮れページ11

夢を見た。それは家へと帰る道。

夢の中での私の姿は幼くて。そして懐かしくして、暖かくて、大きな背中。

私は兄におぶられていた。いつもこうして、2人で町へとおつかいに行ったものだ。懐かしさに安堵して、思わずその背中に頬を寄せる。

『お兄ちゃん。今日のご飯何かなあ。』

「ふふ、なんだろうなA。」

嗚呼、これは紛れもない兄の声。久しぶりに聞く声、夢でもいい、とても嬉しくなった。

ずっと、ずっとこうしたかった。

10になる前、両親をなくしてから、何もかもなくしてしまったと思ってたあの頃から。祖父には、育手としての尊敬や、恩があるので中々甘えるということは出来ない……

そもそも、あの頃は生きるのに、強くなるのに必死でそんなこと考えてる余裕はなかった。

それに、もう、そんな事出来る歳じゃないしな……

「……急ごうA暗くなってしまう。」

兄さんは背中から私をおろし、手を握り歩きだそうとした。

いつの間にかあたりは暗くなり、私も鬼殺隊の服を纏った元の姿に。歩きだそうとする兄に手を引かれたが、私はその一歩が踏み出せなかった…………

「A？」

『ねえ……兄さんは、私の前からいなくなったりしないよね。』

兄がこちらを振り返る。

「―――――。」

………？？なんて言ってるか分からない、声が聞こえないよ？

「―――――A。」

『兄さ……。』

そこにはあの頃の記憶にはない、成長した兄の姿。

瞬間、暗転。

兄は私が5つになる前に行方不明になったってお母さんが言ってた。

だけれど、両親が居なくなった今も、その事を信じられない私が心の底にいる。

なぜそのことを聞くとあいまいに返すの？たまに読んでた手紙は誰から？お盆や正月に沢山届く食べ物はどこから？

なぜ蜜璃もその話ははぐらかそうとするの？

兄は本当に死んだの――――？

■

太陽が真上に差しかかる頃、Aは寝ていた。森の木陰で。いつもは場所にうるさい花薄荷さえもこの体たらく。

いやだって昨日から寝てないし眠いもん。(A)

最近、ろくに寝ていないのは分かるが。しかし、鬼も出ない昼間とはいえ道端で寝るのはどうかと思う。

…………寝ているはずのAは泣いていた。

ふと、Aに人影が刺す。

「……………。」

その人影は何も言わずに、Aの瞳からこぼれる涙を払うと、俵かつぎに、ついでに鴉も拾うとその場を去っていった。