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――太宰治が姿を消した。
その話は本部全体に広まった。
森は椅子に座りながら日が沈んだ横浜の街を眺めてると、部屋の外から銃声が聞こえた。
何か暴れる音と振動が伝わり、静かになったと思えば部屋の扉が開いた。
顔を出したのは、太宰治――――に良く似ているが、その片割れであることを森はすぐに察した。
閉まろうとする扉の前に、警備で配置していた黒服が倒れているのが見えた。
「おかえり津島君。任務ご苦労様」
「首領だけですよ、僕を労わってくれるのは。ビルに入った途端、みんな血相を変えて僕を捕まえようとするんですよ。挙句に殺されそうにもなるし。説明するのが面倒なので、全員蹴散らしましたけど」
やれやれと肩を竦めて云いながら津島が首領の横に立つ。
「私も一瞬、太宰君が帰って来たのかと思ったよ」
「えぇ首領まで酷いなぁ。ちゃんと僕だと分かるようにしないと。髪型を変えるとか?」
「整形でもするかい?」
「メス出しながら云わないで下さい」
そんな他愛もない話をしていると、津島の懐が震えた。
沈黙する中、携帯電話のバイブ音だけが鳴っているのが聞こえる。
「……」
「出ないのかい?」
森の視線が津島に鋭く刺さる。
津島は携帯を取り出し液晶画面を見れば、太宰から。
かれこれ16回目の着信。
名前を確認してから、津島は電話を床に落とすと踏み潰して壊した。
「てっきり太宰君と一緒に行ってしまうのかと思ったのだけど、喧嘩でもしたのかな?」
津島の行動に目を丸くしながら森が尋ねると、津島は小さく笑った。
「……それなら、幾分か、気持ちが軽いんですけど、ね……」
「……? 津島君?」
違和感を覚えて森が立ち上がると同時に、津島は胸を押さえて倒れた。
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ルビー - 4ネタも見てみたいと思いました。すごく素敵なお話でした。 (2021年9月22日 7時) (レス) @page21 id: dc0e15f974 (このIDを非表示/違反報告)
ネコぱふぇ(プロフ) - 暁郗さん» ご指摘ありがとうございます。別の兄妹の変換ミスです。弟です弟。 (2021年1月24日 17時) (レス) id: 3da7122dd2 (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - 兄妹?え、兄妹??妹…だったの!? (2021年1月24日 17時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
ネコぱふぇ(プロフ) - ノルさん» コメントありがとうございます。喜んで頂けて良かったです。 (2021年1月11日 22時) (レス) id: 3da7122dd2 (このIDを非表示/違反報告)
ノル - 展開が面白すぎて一気に読み進めれました…! 更新楽しみに待ってます!ご無理のない程度に頑張って下さい(*´ω`*) (2021年1月11日 20時) (レス) id: 2991e696be (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ネコぱふぇ | 作成日時:2020年12月29日 21時