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ここは何処か。
自分は死んだ筈だ。
もしかして此処はあの世なのか。
血の臭いと消毒液の臭い。
僕は寝台に寝ていた。
腕を動かそうとすると上手く動かせない。
両手がまるで祈りをする様に合わせられ、それが外れない様に縛られている。
左手が右手に触れている状態だ。
この場合、僕の「人間失格」が「畜犬談」を無効化していることになる。
こんな異能力の封じ方を知っているのは、世界広しと云えど
「気分はどうだい? A」
寝台の横からの声に視線を向ければ、椅子に腰掛ける治が居た。
「最悪だよ……治が居るってことは此処は探偵社かな?」
「そうだよ。Aが気を失っている間に、全て処置は済んでいる」
「……は?」
「呪いの話は聞いたよ」
治の目は酷く冷たく僕を見下ろしていた。
思えば今自分は普通に呼吸が出来ている。
胸の重苦しい感覚も倦怠感もない。
それが何を意味するか、すぐに悟った。
「……あぁやっぱり喋ったんだ、
――じゃあ君が今度探偵社に来た時は、僕等の好きにさせて貰うよ。
江戸川乱歩のあの言葉が変に引っ掛かっていたのだ。
やっと意味が分かった。
「やっぱりあの時殺しとけば良かったな」
その時、突然胸倉を掴まれ無理矢理体を起こされた。
やったのは勿論目の前の片割れ。
「それでA、まず私に話すことがあるんじゃないのかい?」
「話? さぁ何の事だか分からっ――!!」
僕がそう呟けば、治は僕を寝台から引き摺り下ろしぶん投げた。
受け身を取れず近くの棚に背中をぶつけた。
座り込むと、棚から瓶が落ちて床に破片が散らばった。
カツカツと治が近付いて来てまた僕の胸倉を掴んで立たせた。
「何故4年前のあの時私に云わなかった。云ってくれれば――」
「云ったところで治に何が出来るんだい? あの時は、織田作を失ってその事しか頭に無かった」
「っ……」
図星だ。
治は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。
僕は足を振り上げた。
首から吊るした右手のギブスにあたれば、治は顔を歪めた。
胸倉を掴む左手の力が緩んだ隙に、その手を払って僕は治を殴った。
倒れた治の上に馬乗りになった所で、医務室のドアが開いた。
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ルビー - 4ネタも見てみたいと思いました。すごく素敵なお話でした。 (2021年9月22日 7時) (レス) @page21 id: dc0e15f974 (このIDを非表示/違反報告)
ネコぱふぇ(プロフ) - 暁郗さん» ご指摘ありがとうございます。別の兄妹の変換ミスです。弟です弟。 (2021年1月24日 17時) (レス) id: 3da7122dd2 (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - 兄妹?え、兄妹??妹…だったの!? (2021年1月24日 17時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
ネコぱふぇ(プロフ) - ノルさん» コメントありがとうございます。喜んで頂けて良かったです。 (2021年1月11日 22時) (レス) id: 3da7122dd2 (このIDを非表示/違反報告)
ノル - 展開が面白すぎて一気に読み進めれました…! 更新楽しみに待ってます!ご無理のない程度に頑張って下さい(*´ω`*) (2021年1月11日 20時) (レス) id: 2991e696be (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ネコぱふぇ | 作成日時:2020年12月29日 21時