七話 2/10修正 ページ7
「ギル、貴方本当に頑固よね」
「褒め言葉として受け取っておきましょう」
ビスケット島に向かう船内(特別にだしてもらった)で、胡散臭い笑顔を崩さない彼に、もはや私は呆れのため息しかでなかった。何を隠そうこの男、以前はうるせぇだのあっち行けだの邪険にしまくった私に、未だ笑みと敬語を崩さずにずっと傍から離れないのである。きっと意地になっているに違いない。
「第一、私達には族長以外に支配階級の役職などないのだから、わざわざ従者のように振る舞わなくてもいいでしょう。なぜそんなことをしているの？」
「族長様のお言いつけですので」
「……ほんとに？」
「はい」
波が揺れると同時に船も踊り、独特の浮遊感のようなものが作り出された。前とは違い、本当に地に足つかなくなるような感覚だ。
私はシャーロット家に嫁ぐと、万国に移住することになる。これは、我々がビッグ・マムを信頼しているという証明でもあり、『族長の娘であるグラシエに傷一つでもつけたら、どうなるかわかるだろう？』というお父様の脅迫でもある。しかし父親として言ってしまえば、可愛い娘を敵地に単身送りこむという事だ。自衛できる程度の実力はあるとはいえ、親バカなあの人は心配して護衛をつけた…と。まぁ、こんなとこだろう。
「じゃあ貴方のその他人行儀な態度は、私に恥をかかせないようにかしら？」
「はい。貴方様の顔をたてるためでもありますが」
ああ、なるほど、やっと腑に落ちた。
「そうね、友人とはいえ、護衛として来ている者に舐められた態度をとられてたら私の面子がたたないわね」
彼からの返事はなく、それきり会話は途絶えてしまった。波の音や、乗組員の足音が騒がしく聞こえる。ギルとの距離が果てしなく遠く感ぜられた。少し寂しい気がした。今まで感じたことのない、なんだか不思議な寂しさであった。
「グラシエ様、もう間も無くビスケット島に到着いたします！」
チェスをかたどった兵士(呼び方がわからない)が律儀に報告に来る。ギルはまるで執事のように扉を開けて、そして目を伏せた。婚約さえしていなければ、強引に手を引いて連れ出してくれたのだろうかと思う。外に出て、はっきりと見えるほど近づいたビスケット島をぼんやりと眺めた。
奇跡と偶然が同じ物であるのなら、私はこれを『最低の奇跡』と呼ぼう。
＿同時刻、シャーロット・カタクリは、グラシエの父親と遭遇していた。
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黒川(プロフ) - トマトさん» ありがとうございます！ (2020年1月27日 17時) (
レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
トマト - (ruby:漢字:読み)でルビ振れますよ (2019年9月11日 21時) (レス) id: 163a5abe9a (このIDを非表示/違反報告)
黒川(プロフ) - はいるさん» ありがとうございます！最近私生活が忙しく更新が滞ってしまっているのですが、気長にお待ちいただけると嬉しいです！ (2019年7月24日 18時) (レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
はいる(プロフ) - 続きが読めるのを楽しみにしています！ (2019年7月23日 9時) (レス) id: bf6bddb7dc (このIDを非表示/違反報告)
黒川(プロフ) - ゆめさん» ありがとうございます！そのお言葉が嬉しいです(^^)もっとのびるよう精進したいと思います！ (2019年6月2日 13時) (レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒川 | 作成日時：2019年5月26日 17時
