四話 2/11修正 ページ4
甘さ控えめのムース＿朝食についていたデザート＿の最後の一口を、ゆっくり口内で味わって飲み込んだ。優しいラズベリーの味がした。ホールケーキ城に到着して二日目の朝。昨日は長旅の疲れを休めるためにずっと部屋にいたが、今日は少し動こうかと思案していた。
「グラシエ様」
…嫌味なほど耳触りの良いテノールが聞こえてきた。男の呼ぶ声にわざと睨んでみるも、使用人のように頭を下げているせいでどうやら気づいていない。もしくは気づかないフリだろう。相も変わらずなんと有能で憎らしい男だ。
「本日はどう致しましょう」
「…ビッグ・マムの所へ挨拶に行った後、街へ出るわ。スイートシティを見てまわりたいの」
一足先に到着していた父は既にキャンディ島へも観光に出向いている。もともと式は約二ヶ月後。父も私も、式までの間に万国を見てみたいとビッグ・マムに要望はだしていた。
「了解しました。ではそのように」
扉の閉まる音を聞いた後、クローゼットのようなドレスルームに入って、中にかけてある衣服を吟味する。どれもこれも『私を着て！』とばかりに主張が激しい。派手ではないけれど、なかなか目にうるさいカラーリングである。見慣れないものもあるから、きっとそれはお父様が紛れ込ませたのだろう。淡い水色でグラデーションがかったマーメイドドレスに、モノトーン調のバルーンドレス、果ては沢山の花の刺繍とラメが入った白いAラインドレス。あまりにも統一性のないラインナップは、いかにも『可愛い可愛い俺の娘にはなんでも似合うよね！』という、お父様の親バカ思考が丸出しだ。私ももう二十三になるのだから、子離れしてほしいものである。
さてどうしたものか。あまり遅くなって彼女＿ビッグ・マム＿の機嫌を損ねては事だ。しかしこれといったものはなかなか見つからない。＿＿そして、多くの衣服を掻き分けた先に、ひときわ目を引くドレスがあった。
目を奪って離さない、綺麗な赤。スリットの入った、オフショルダーのスレンダードレスだった。至ってシンプルなデザインの。綺麗だと思った。ふと、昔カタクリに『お前は肌が白いから、赤も黒も映えるな』と言われたのを思い出す。幼さ故の戯れだ。…ああ、もう！どうしてこんな時に思い出すのだろう！
「行くわよ」
「はい」
赤を纏って、シルバーのヒールを鳴らして。地に足はついているのに心は羽が生えたようだ。落ち着いて、さぁ、義母になる彼女の元へ、行こうじゃあないか。
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黒川(プロフ) - トマトさん» ありがとうございます！ (2020年1月27日 17時) (
レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
トマト - (ruby:漢字:読み)でルビ振れますよ (2019年9月11日 21時) (レス) id: 163a5abe9a (このIDを非表示/違反報告)
黒川(プロフ) - はいるさん» ありがとうございます！最近私生活が忙しく更新が滞ってしまっているのですが、気長にお待ちいただけると嬉しいです！ (2019年7月24日 18時) (レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
はいる(プロフ) - 続きが読めるのを楽しみにしています！ (2019年7月23日 9時) (レス) id: bf6bddb7dc (このIDを非表示/違反報告)
黒川(プロフ) - ゆめさん» ありがとうございます！そのお言葉が嬉しいです(^^)もっとのびるよう精進したいと思います！ (2019年6月2日 13時) (レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒川 | 作成日時：2019年5月26日 17時
