十六話 ページ16
__ふと、舌に痺れを感じた。
突然というよりは、『だんだんと痺れが強まったので気づいた』ようなものだった。同時に少し息苦しい。周りの酸素濃度が急激に減少したような気分だ。嫌な予感がしたが、どうせとりとめもないことだろうと一歩踏みだす。
「………?」
「……どうした?」
…前言撤回、とりとめた方がいいかもしれない。なかなか立ち去ろうとしない私に違和感を覚えたのか、カタクリが怪訝そうにこちらに問う。背後のギルが様子のおかしい私に気づいたのがわかる。
ああ、気配に過敏になっているんだ。
「グラシエ様?」
じわじわと追い詰められていくような不快感は手足にまで現れ始め、嫌な予感が確信に変わる。気道が狭くなったわけじゃない、でも息苦しい。体に酸素が行き渡っていかないから、臓器に障害が起こる可能性がある。壁に手をついて体を支えるも、力が入らず座り込む。体調を崩すなんていつぶりだろうと、自分の体を分析しながら思った。いや、これはきっと体調を崩したわけじゃなく__。
「体調が悪いのか?」
カタクリくんの低い声が脳に溶けた。
「…起床時は、そうは見えなかったのですが……」
「だが、医者に見せた方がいいだろう」
「……そう、ですね………」
ギルはいつから私の保護者になったのだ。カタクリくんも、余計なお世話だというのに。という言葉は吐き出されず、代わりに出たのは醜い喘鳴だった。
へたり込む自分を嘲るように笑って、耐えられずに横になった。勢いあまって頭を打ちつける。驚くギルの、悲鳴のような叫び声が聞こえた。本当に悲鳴だったのかもしれないけれど。冷静沈着で罵詈雑言ばかり吐いていた唇からそんな声が聞けるだなんて思っていなくて、音貝に録音したくなった。
意識はしっかりしている。この分ならすぐに回復するだろうが、なにぶん舌が痺れているので話しにくく、それを伝えられない。
一服盛られておいて気づかなかったのは悔しいけれども、私はそれよりも、この事を知った父がマムに対して戦争をふっかけないか心配だった。気が気じゃない。あの人ならやりかねない。
__というよりも、結婚式前に新婦に一服盛るだなんて、この結婚、面倒なことになりそうだ。そう思いながら、ゆったりと意識を手放した。
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劇場版公開されましたね、皆様ご覧になられたでしょうか。私は観てきたのですが、ただひたすらに素晴らしかったです( ˘ω˘ )
その勢いで筆が速くなっております。
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黒川(プロフ) - トマトさん» ありがとうございます! (2020年1月27日 17時) (レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
トマト - (ruby:漢字:読み)でルビ振れますよ (2019年9月11日 21時) (レス) id: 163a5abe9a (このIDを非表示/違反報告)
黒川(プロフ) - はいるさん» ありがとうございます!最近私生活が忙しく更新が滞ってしまっているのですが、気長にお待ちいただけると嬉しいです! (2019年7月24日 18時) (レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
はいる(プロフ) - 続きが読めるのを楽しみにしています! (2019年7月23日 9時) (レス) id: bf6bddb7dc (このIDを非表示/違反報告)
黒川(プロフ) - ゆめさん» ありがとうございます!そのお言葉が嬉しいです(^^)もっとのびるよう精進したいと思います! (2019年6月2日 13時) (レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒川 | 作成日時:2019年5月26日 17時