十五話 ページ15
未だまどろみに包まれた頭で着替えを済ますと、思いきり体を伸ばす。どうやら変な体勢で寝たらしく、体の節々に痛みがあった。泣いたせいで目元に少し違和感があるが、まぁ腫れてはいないだろう。癖のついた髪を無理矢理撫でつけた。…いつも思っているが、なんて言う事を聞かない髪だ。
「失礼します。おはようございます」
「ああ、おはようギル」
「朝食をお持ちしました。…手伝いましょうか？」
「大丈夫よ。いつものことだもの」
口でくわえた髪紐で結ったあと、彼に促され朝食をとる。ギルが斜め前で控えているのはどうも落ち着かないが、食事はとても美味しい。けれど、咀嚼するばかりの空間はどこかむず痒い。
「貴方は食べないの？」
「先にいただきましたので」
「………そう」
なんだか味の強いおひたしを、勢いよく口に放り込んだ。まるでギルが遠い人になってしまったようだ。
実際に遠くなったのは、私の方だけれど。
「あら、おはようカタクリくん」
「ああ。遅かったな」
「ごめんなさい、街の方々に捕まってしまって」
港に停泊している、ホールケーキアイランドへ向かう船上で再び彼に出会った。昨日泣いて蟠りが少し解れたのか、顔を合わせてしまうのはしょうがないとわりきれている。道中、昨日の海賊の一件で私の顔を覚えられてしまったようで、人だかりができてしまいここに来るまで大変だった。思い当たったらしいカタクリくんは納得した面持ちをしている。辺りでは忙しなくチェス人間(やっぱり呼び方はわからない)が働いていた。
「そういえば、グラシエ」
「…何かしら。早く船内に入りたいのだけれど」
顔の半分が隠れているせいで、彼が何を考えているかわからなかった。
「何故こんなにも早く来た？」
どうにも脈絡のない言葉に思わず思考が真っ白になる。
「…それは、どういうこと？」
「式や顔合わせの茶会までまだ随分とあるだろう。万国に来るのはもう少し遅くても良かったんじゃないか？」
「ああ…そういうこと。お父様がね、できるだけ万国に慣れておいた方が良いと仰られたのよ。環境が変わったストレスで体調でも崩したら大変だからって。いつもの過保護だから気にしないでくれると助かるわ」
「……善処しよう」
彼は私に素っ気なく言葉を渡すと、もう興味がないと言わんばかりに目を閉じた。物悲しくはあるけれど、今はそれが有り難い。凪いだ水面がどこか不気味だった。
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黒川(プロフ) - トマトさん» ありがとうございます！ (2020年1月27日 17時) (
レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
トマト - (ruby:漢字:読み)でルビ振れますよ (2019年9月11日 21時) (レス) id: 163a5abe9a (このIDを非表示/違反報告)
黒川(プロフ) - はいるさん» ありがとうございます！最近私生活が忙しく更新が滞ってしまっているのですが、気長にお待ちいただけると嬉しいです！ (2019年7月24日 18時) (レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
はいる(プロフ) - 続きが読めるのを楽しみにしています！ (2019年7月23日 9時) (レス) id: bf6bddb7dc (このIDを非表示/違反報告)
黒川(プロフ) - ゆめさん» ありがとうございます！そのお言葉が嬉しいです(^^)もっとのびるよう精進したいと思います！ (2019年6月2日 13時) (レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒川 | 作成日時：2019年5月26日 17時
