十一話 ページ11
北に行くにつれ、少しずつそれらしい様子が見えてきた。思っていたよりも事態は深刻ではなさそうで、杞憂に終わって安堵した。
「ほぉら、見えてきた。お前にこれを見せたかったんだカタクリ」
エヴァンが背後で声を弾ませている。怪訝に思って男に視線を送るも、真っ直ぐ前を見て意に介していなかった。故意に抽象された表現は、俺が理解するには些かわかりにくい。まさか海賊に襲われる住人を見せたかったわけでもあるまい。
「俺が、世界で一番美しいと思っている光景だよ」
どうやら広場の方に海賊がいるようだった。人だかりができている。そしてその大半は俺よりも身長が低いため、広場に何があるか…見えてしまう。
数十人の海賊が地に伏していた。血を垂れ流し、白目をむいて倒れている。なるほど、群衆はそれを遠巻きにするより他ないのだろう。
そして、何よりも目を惹くのが＿＿
＿＿＿＿猩々緋のドレスを纏う、女だった。
人々の視線の先、地に伏す海賊を踏みつけ佇む女。世界の中心にでもいるようだ。どうしたらそんな表情ができるのか、あらゆる感情を削ぎ落とした顔でぼんやりと足元の海賊達を見ている。ひどく淡い桃色の瞳にまつげの陰が落ちていた。高く結い上げた癖のある長髪が風に揺れて、時折彼女の顔を隠していた。猩々緋のドレスはさながら生き血を纏っているようで倒錯的だ。まさに一枚の絵画。よく見れば、群衆が浮かべている表情は畏怖や恐怖の類いではない。
糸目の男が言わんとしていることが、ようやく少しわかった。
「美人だろう？俺はお前に、あの子を自慢したいのさ」
瞬間、その場は歓声に包まれた。顰めっ面で立ち止まる自分は、とても場に不釣り合いだと思う。彼女への感謝の声、賞賛。それらに囲まれても、グラシエが表情を変えることはなかった。というよりも、どう応えていいのかわからない様子だった。シルバーのヒールを鳴らして、黒髪の男と一言二言交わしている。
ふとグラシエが顔を上げた。綿飴のように髪が揺れ、切れ長の目が少し見開かれる。俺には、その一連の動作がスローモーションのようにゆったりとして見えていた。
「カタクリ、くん？」
騒がしい歓声の中、しかもこの距離で、懐かしい声だけを拾い上げた自分の耳を優秀だと褒めるべきだろうか。
その時、十数年ぶりに、カタクリとグラシエの視線は交錯した。
＿＿＿＿＿＿＿＿
前のタイトルこのシーンからきてます。ルビの振り方わからない。コメントほちいです。
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黒川(プロフ) - トマトさん» ありがとうございます！ (2020年1月27日 17時) (
レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
トマト - (ruby:漢字:読み)でルビ振れますよ (2019年9月11日 21時) (レス) id: 163a5abe9a (このIDを非表示/違反報告)
黒川(プロフ) - はいるさん» ありがとうございます！最近私生活が忙しく更新が滞ってしまっているのですが、気長にお待ちいただけると嬉しいです！ (2019年7月24日 18時) (レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
はいる(プロフ) - 続きが読めるのを楽しみにしています！ (2019年7月23日 9時) (レス) id: bf6bddb7dc (このIDを非表示/違反報告)
黒川(プロフ) - ゆめさん» ありがとうございます！そのお言葉が嬉しいです(^^)もっとのびるよう精進したいと思います！ (2019年6月2日 13時) (レス) id: 71b39bcae7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒川 | 作成日時：2019年5月26日 17時
